「空樽は音が高い」は「あきだるはおとがたかい」と読み、知識や思慮に乏しい人ほど、よくしゃべったり大げさに自分を見せたりするという否定的なことわざです。
空の樽をたたくと高く大きな音が響く一方、中身の詰まった樽は響きにくいという感覚を、人の言葉と中身に重ねています。
日本で古くから自然に生まれたことわざのようにも見えますが、辞典では明治期に英語のことわざを翻訳したものとみられています。
ここでは意味や使い方に加え、英語の原表現やシェイクスピア作品に残る古い用例まで分かりやすく紹介します。
「空樽は音が高い」の意味・読み方・使い方
読み方と意味
「空樽は音が高い」の読み方は「あきだるはおとがたかい」です。
「空樽」とは、酒やしょうゆなどの中身が入っていない樽を指します。
ことわざ全体では、知識や実力といった中身のない人ほど、盛んにしゃべったり、自分を大きく見せようとしたりするという意味になります。
単に「話すことが好きな人」を批判する言葉ではありません。
よく知らないことを断定する、根拠がないのに自信満々に語る、実力以上に自分を誇示するといった「言葉の大きさと中身が釣り合わない状態」を戒める表現です。
どのような場面で使うのか
実績のない人が自慢ばかりしている場面や、知識が十分でない人が周囲の話を聞かずに主張を続ける場面などで使えます。
また、他人を批判するだけでなく、自分が知ったかぶりをしないための戒めとして使うこともできます。
ただし、「あなたは中身のない人だ」と暗に示す強い言い方です。
本人へ直接投げかけると侮辱と受け取られやすいため、人物評として使う場合は注意が必要です。
「空樽は音が高い」を使った例文
・事情をほとんど確認していないのに、彼は会議で誰よりも断定的に話していた。空樽は音が高いとは、このようなことをいうのだろう。
・自慢話の多さだけで実力を判断してはいけない。空樽は音が高いということもある。
・根拠の薄い情報ほど大げさに広まりやすい様子を見ると、空樽は音が高いという言葉を思い出す。
・自分が詳しくない話題ほど断言したくなることがあるので、空樽は音が高いとならないよう気をつけたい。
「空樽」という比喩が分かりやすかった理由
空の樽は音が響きやすい
樽の中が空であれば、外側をたたいたときに板と内部の空間が響き、軽く目立つ音がします。
一方、中に液体などが入っていれば振動が抑えられ、空のときほど音は響きません。
この違いが、「中身がないものほど大きな音を出す」という比喩の土台になっています。
樽の実物を思い浮かべれば、中身の有無によって響き方が変わるという対比は理解しやすいでしょう。
ただし、日本でも樽が身近だったという事実だけで、日本独自に生まれたことわざだとは判断できません。
確認できる辞典では、英語から取り入れられた表現と説明されています。
樽の「中身」と人の「中身」を重ねている
このことわざの面白さは、容器の中に入っている物と、人が備えている知識や思慮を、どちらも「中身」として重ねられる点にあります。
比喩の対応関係は次のとおりです。
・空の樽は、知識や経験、思慮が不足している人を表します。
・高く響く音は、根拠の乏しい発言や大げさな自慢を表します。
・中身の入った樽は、知識や実力を備え、必要以上に騒がない人を連想させます。
目立つ発言をしているから中身があるとは限らないという、人間関係の観察が短い言葉にまとめられています。
「音が高い」は声の高さだけを指すのではない
現代の「音が高い」からは、高音か低音かという音程を思い浮かべるかもしれません。
しかし、このことわざで大切なのは、空の容器ほど音が軽く大きく響き、周囲の注意を引くという対比です。
英語のことわざも「空の容器が最も多くの音を立てる」という形になっており、音の高さを細かく説明する言葉ではありません。
ここでの「音が高い」は、空樽がよく響いて騒がしい様子を表したものと理解すると、ことわざの意図がつかみやすくなります。
明治期に英語から取り入れられたとみられることわざ
英語では「Empty vessels make the most sound」
『ことわざを知る辞典』では、「空樽は音が高い」は明治期に英語のことわざを翻訳したものとみられると説明されています。
対応する英語は「Empty vessels make the most sound.」です。
直訳すると「空の容器が最も大きな音を立てる」となります。
ここで使われる「vessel」は船ではなく、物を入れる容器という意味です。
英語では容器全般を示す言葉ですが、日本語のことわざでは、具体的な「樽」を使う表現になっています。
この説明から、中国の古典や日本の昔話を直接の原典とすることわざではなく、西洋のことわざを翻訳して日本語に取り入れた表現だと考えられます。
ただし、今回確認できた資料からは、最初に翻訳した人物や初めて掲載された文献までは特定できませんでした。
1600年刊行の『ヘンリー五世』にも同じ比喩がある
同じことわざは、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ヘンリー五世』第4幕第4場にも登場します。
この場面では、兵士ピストルが捕虜となったフランス兵を大声で脅し、身代金を約束させます。
ピストルが立ち去ったあと、少年は、空っぽの心からこれほど大きな声が出るとは思わなかったという趣旨の批評を加え、「The empty vessel makes the greatest sound.」と述べます。
フォルジャー・シェイクスピア図書館によると、『ヘンリー五世』の最初の四折版は1600年に刊行されました。
作中では少年がこの言葉を「ことわざ」として持ち出しているため、少なくとも作品が書かれた当時には、空の容器と大きな音を結び付ける言い回しが通用していたことがうかがえます。
シェイクスピアが作った言葉とは断定できない
『ヘンリー五世』は、このことわざの古い用例を知るうえで重要な作品です。
しかし、作品に登場するからといって、シェイクスピア本人が最初に作った言葉とは限りません。
少年が既に知られた言い回しとして述べていることから、シェイクスピア以前から使われていた可能性があります。
正確な発祥地や最初の使用者については、今回確認できた資料だけでは断定できません。
確認できる範囲では、英語圏で古くから使われていたことわざが、明治期の日本で「空樽は音が高い」と訳されたと捉えるのが適切です。
「空樽は音が高い」と似たことわざ
「浅瀬に仇波」は浅い水と騒がしい波の対比
「浅瀬に仇波」は「あさせにあだなみ」と読み、考えの浅い人ほど、よくしゃべったり騒いだりすることのたとえです。
水の浅い場所では波が立ちやすい様子を、人の思慮の浅さに重ねています。
「空樽は音が高い」が空の容器と音を対比するのに対し、「浅瀬に仇波」は浅い水と騒がしい波を対比する点が異なります。
比喩に使う物は違いますが、中身や思慮の乏しさが、騒がしい言動になって表れるという意味はよく似ています。
「能ある鷹は爪を隠す」は実力のある人に注目する
「能ある鷹は爪を隠す」は、本当に能力のある人は、むやみに実力を見せびらかさないという意味です。
「空樽は音が高い」が中身のない人の大げさな言動を批判するのに対し、こちらは実力のある人の控えめな態度を評価します。
反対側から同じ人間観を表したことわざといえるでしょう。
「空樽は音が高い」に関するよくある質問
「空樽」は「からだる」と読んでもよいですか?
「空樽」という名詞だけなら、「あきだる」と「からだる」の両方の読み方があります。
ただし、ことわざ「空樽は音が高い」は、一般に「あきだるはおとがたかい」と読みます。
英語では「sound」と「noise」のどちらを使いますか?
辞典に示される形は「Empty vessels make the most sound.」です。
一方、「sound」を「noise」に替えた形も同じ意味で使われます。
また、『ヘンリー五世』では単数形を用いた「The empty vessel makes the greatest sound.」という形で登場します。
細かな語の違いはありますが、いずれも空の容器ほど大きな音を立てるという比喩です。
人に直接使っても失礼になりませんか?
「知識や思慮といった中身がない」と評価する言葉なので、本人へ直接使えば失礼になりやすい表現です。
文学作品や出来事を論評するとき、自分への戒めとして使うときなど、相手を一方的に侮辱しない文脈で用いるのがよいでしょう。
まとめ
「空樽は音が高い」は言葉の大きさと中身の不釣り合いを戒める
「空樽は音が高い」は、空の樽ほど高く大きな音を立てることから、知識や思慮に乏しい人ほどよくしゃべり、自分を大きく見せることを表したことわざです。
単なるおしゃべりを否定するのではなく、根拠のない断言や、中身の伴わない自慢を戒める点が重要です。
辞典では明治期に英語から翻訳されたものとみられており、対応する英語表現は「Empty vessels make the most sound.」です。
1600年に最初の四折版が刊行されたシェイクスピアの『ヘンリー五世』にもよく似た形があり、作品の中ですでに知られた言い回しとして扱われていたことがうかがえます。
人に向ければ強い批判になるため、言葉の量や声の大きさだけでなく、根拠や内容が伴っているかを自分自身で振り返る戒めとして受け取るとよいでしょう。


