ワニの刺し身の伝承地域は、広島県北部(主に三次市や庄原市周辺)になります。主な材料として、サメ、しょうが、にんにく、しょうゆになります。
ワニの刺し身という名前で親しまれていますが、実際に食べられる魚は「サメ」になります。
山間部の広島県北部では古くから「サメ」を「ワニ」と特別な名前で呼ぶ文化があり、この呼称は古代の神話にも関連しているとされています。
江戸時代、日本海側の商人が持ち込んだ記録があり、保存性の高いこの魚は山間部でも重宝されるようになりました。
明治以降、近隣の漁村からの供給が増えたことで、家庭の食卓にも刺身として登場するようになりました。魚独特の香りが強くなるため、しょうがやしょうゆで調味して食べることが一般的で、一部では甘い調味料で味付けする家庭もありました。
この食文化は秋の祭りや正月、祝賀行事などの特別な場面で欠かせない存在として広まっています。
三次市や庄原市周辺では20種類以上のサメが食されていますが、特にネズミザメ、アオザメ、シュモクザメが多いです。
魚の種類によって肉の色や風味が異なり、一部では「地元のカジキ」や「特産のマグロ」とも呼ばれることがあります。秋から冬にかけては特に美味しいとされ、地元での人気が高い時期となっています。
伝統的には、秋の祭りや正月の行事の際に多く消費されます。一時期は祭りの前になると地元の市場で専用の売り場が立ち並び、現在でも年末には特産物として話題になることがあります。年配の人々には特に親しまれており、地域の味として根付いています。
刺身として生で食べる際には、魚の特有の香りを和らげるため、しょうがやにんにくを混ぜたしょうゆにつけて食べるのが基本です。さらに、煮物や揚げ物、焼き物などさまざまな料理法が試され、近年では創作料理にも利用されています。
地元のスーパーでは冬季に特産品として並び、飲食店でも提供されています。現代では地域の素材を活かした新たな商品が開発され、特産のハンバーガーや餃子、ウインナーなどの加工品も人気を集めています。また、保存食や調味料としての利用も広がっており、これらの商品は土産物としても注目されています。
ワニの刺し身のレシピと材料
材料(1人分)
魚の刺身:70g程度
濃口しょうゆ:適量
すりおろししょうが:適量
作り方
1:刺身を器に盛り付けます。
2:しょうがを加えた濃口しょうゆにつけていただきます。
古事記の因幡の白兎について紹介
因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)は、『古事記』に収められている日本の神話の一つで、サメ(古語で「ワニ」と呼ばれる)の登場が象徴的です。この物語は、因幡地方を舞台とした神話で、以下のような内容です。
物語の概要
白兎(しろうさぎ)は隠岐の島から因幡の国(現在の鳥取県)へ渡りたいと考えます。しかし、海を渡る手段がないため、サメ(ワニ)をだますことで海を越えようとします。
白兎はサメたちにこう持ちかけます。
「お前たちと私たちの仲間、どちらが数が多いか比べてみよう。数えるために、お前たちは一列に並んでくれ。」
サメたちは提案に乗り、一列に並びます。
白兎は並んだサメの背中を踏んで渡りながら、「数を数える」と言いつつ、対岸へと近づきます。
しかし、最後のところで白兎はサメをだましたことを口にしてしまいます。怒ったサメたちは白兎を捕らえ、皮をはがしてしまいました。
苦しむ白兎は陸に上がりますが、八上姫(やがみひめ)を妻に迎えるため旅をしていた大国主命(おおくにぬしのみこと)の兄神たちに出会います。
兄神たちは、白兎に「海水で体を洗い、風に当たると良い」と嘘の助言をします。それを信じた白兎はさらに苦しむことになりました。
後からやってきた大国主命が白兎を哀れみ、正しい治療法を教えます。「真水で体を洗い、蒲(がま)の穂の花粉をつけると良い」と伝え、白兎は回復しました。
感謝した白兎は、大国主命が八上姫と結ばれる運命にあると予言します。
サメ(ワニ)の役割と解釈
この神話に登場する「ワニ」は現在でいう「サメ」と考えられています。
当時、日本語では「ワニ」が海に棲む巨大な生き物を指しており、その具体的な種がサメであった可能性が高いです。
また、「ワニ」という言葉には、単にサメを指すだけでなく、「海を越える存在」や「危険な相手」という象徴的な意味合いも込められています。
この物語では、白兎がサメを利用して困難を乗り越えようとする一方で、嘘をついた結果罰を受けるという教訓が込められています。
また、大国主命が白兎を助けることで、優しさや正しい行いが重要であることも伝えられています。
サメ(ワニ)はこの神話において、自然の力や試練を象徴する存在として描かれています。その一方で、白兎がサメを活用する場面からは知恵や策略の重要性も浮かび上がっています。
まとめ
広島県北部、特に三次市や庄原市で親しまれている「ワニの刺し身」は、実際にはサメの刺し身です。古来、中国地方ではサメを「ワニ」と呼ぶ文化があり、これは古語や神話に由来しています。江戸時代には日本海側の商人からサメが山間部に運ばれ、保存性の高さから貴重な食材として重宝されました。
サメの肉は特有のアンモニア臭を持つため、しょうがやしょうゆを使って調味し、臭いを和らげながら食べるのが一般的です。
一部の家庭では砂糖しょうゆも用いられていました。秋祭りや正月といった祝い事では欠かせない料理として伝統的に受け継がれ、地域の文化に根付いています。
現在ではスーパーや飲食店でも提供されており、刺し身以外にも煮物や揚げ物など多彩な調理法で楽しまれています。さらに、ワニバーガーやワニ餃子などの創作料理も登場しており、郷土の味として新たな形で注目されています。