やせうまは、小麦粉で作った平たい麺状の生地をゆで、きな粉と砂糖をまぶして食べる大分県の郷土料理です。
料理名に「やせた馬」を思わせる言葉が使われていますが、馬肉を使った料理ではありません。
大分県に根付いた粉食文化から生まれた素朴なおやつで、家庭だけでなく学校給食や飲食店でも親しまれています。
名前の由来には平安時代の乳母と若君をめぐる伝承があり、現在も地域の行事と結びついて受け継がれています。
ここでは、やせうまの特徴、名前の由来、大分県で親しまれてきた背景、だんご汁との違いなどを紹介します。
やせうまとはどのような郷土料理?
小麦粉の生地にきな粉と砂糖をまぶした素朴なおやつ
やせうまの主な材料は、小麦粉、きな粉、砂糖です。
小麦粉に水を加えてこねた生地をしばらく休ませ、指先で薄く長く延ばしてからゆでます。
ゆで上がった生地に、砂糖を混ぜたきな粉をたっぷりとまぶせば完成です。
生地は一般的なうどんより幅が広く、場所によって厚みが異なるため、やわらかさの中にほどよい弾力があります。
きな粉の香ばしさとやさしい甘さを楽しめる、飾らない味わいが魅力です。
農林水産省は、熟練した人ほど生地を薄く長く延ばせると紹介しています。
材料は簡素ですが、生地を途中で切らず、均一な厚さに延ばす作業には慣れが必要です。
馬肉や馬の形とは関係がない
「やせうま」という名前から、やせた馬の姿を表した料理や、馬肉を使う料理だと思う人もいるかもしれません。
しかし、基本的なやせうまに馬肉は使われず、生地を馬の形に整えるわけでもありません。
一般には、乳母の名前と、幼児が食べ物を求めた言葉が組み合わさって「やせうま」になったという伝承が知られています。
詳しい由来は後ほど紹介しますが、料理の見た目をそのまま表した名称ではない点を覚えておくとよいでしょう。
やせうまが大分県に根付いた背景
畑作とともに発達した大分県の粉食文化
大分県では、古くから畑を基盤とした穀物栽培が行われ、小麦を粉にして利用する食文化が各地で発達しました。
米が十分にとれない地域でも、小麦粉は日々の食事や間食に活用できる身近な食材でした。
県内には、やせうまのほかにも、だんご汁、じり焼き、ゆでもちなど、小麦粉を使う郷土料理や郷土菓子があります。
少ない材料で作ることができ、腹持ちもよいやせうまは、農作業の合間のおやつや子どもの間食として家庭に定着していったと考えられます。
華やかな菓子というより、地域で手に入る材料を無駄なく生かした暮らしの味です。
家庭や学校給食でも親しまれている
やせうまは、現在も大分県の家庭、飲食店、学校給食などで食べられています。
農林水産省の食育資料でも、生活に根付いた大分県の昔ながらのおやつとして紹介されています。
昔ながらのきな粉と砂糖だけでなく、あんこを添えたり、抹茶やココアの粉をまぶしたりする食べ方も見られます。
味付けを変えても、小麦粉の生地をゆでて甘く仕上げるという基本は共通しています。
身近なおやつとして食べられる一方、地域の食文化を子どもたちへ伝える教材としての役割も担っています。
「やせうま」という名前の由来
乳母の八瀬と若君にまつわる伝承
やせうまの発祥地は、現在の大分県由布市にある古野とされています。
農林水産省が紹介する伝承によると、平安時代、信仰心の厚い乳母の「八瀬(やせ)」が、貴族の若君の健やかな成長を願って古野の妙蓮寺へ参拝しました。
道中で空腹になった若君は、八瀬に食べ物を求めたといわれています。
このときの「八瀬、うま」という言葉が、やがて料理名の「やせうま」になったという話です。
「うま」は幼い子どもが食べ物を指して使った言葉と説明されています。
八瀬は小麦粉の生地を薄く延ばしてゆで、きな粉をまぶしたものを若君に食べさせたと伝わります。
ただし、これは地域に伝わる由来の一説です。
平安時代の出来事として歴史資料で細部まで確認された話とは限らないため、伝承として捉えるのが適切です。
妙蓮寺とお盆の行事
由来の舞台とされる妙蓮寺では、お盆の行事としてやせうまが作られてきました。
やせうまは普段のおやつであると同時に、先祖を迎える盆の供え物としても大切にされてきた料理です。
家庭の味と地域の行事が結びついていることは、やせうまが長く受け継がれてきた理由の一つといえるでしょう。
やせうまとだんご汁の違い
生地は似ていても味付けと役割が異なる
やせうまとだんご汁は、どちらも小麦粉を水でこねた生地を平たく延ばして使う、大分県を代表する郷土料理です。
主な違いは、仕上げ方と食卓での役割にあります。
・やせうま:ゆでた生地に、きな粉と砂糖をまぶして食べるおやつ
・だんご汁:野菜などと一緒に生地をみそ仕立ての汁で煮て食べる食事
やせうまは甘く、だんご汁は塩味やみその風味を楽しむ料理です。
同じような生地を使いながら、おやつにも汁物にもなる点に、大分県の粉食文化の工夫が表れています。
なお、大分県では麺状の生地そのものや市販品を「やせうま」と呼ぶ場合もあります。
そのため、学校給食などの献立で「だんご汁の材料にやせうま」と記されることがありますが、これは甘いきな粉菓子を汁に入れるという意味ではありません。
やせうまの食べ方と味わい
ゆでたてはきな粉がなじみやすい
やせうまは、ゆで上がった生地の水気を適度に切り、温かいうちにきな粉と砂糖をまぶして食べるのが一般的です。
表面に少し水分が残っていると、きな粉が生地になじみやすくなります。
砂糖の量は家庭によって異なり、塩をわずかに加えて甘さを引き立てることもあります。
ゆでたてはやわらかく、もちもちとした食感です。
時間がたつと生地がかたくなったり、互いにくっついたりしやすいため、できたてを味わうのに向いています。
郷土料理のやせうまと銘菓は別のもの
大分県では「豊後銘菓やせうま」という名称の和菓子も販売されています。
こちらは、きな粉のあんを求肥で包んだ持ち運びやすい菓子で、ゆでた小麦粉の生地にきな粉をまぶす郷土料理とは形や作り方が異なります。
名称ときな粉の風味に共通点はありますが、郷土料理を土産向けの和菓子にアレンジした商品として区別すると分かりやすいでしょう。
やせうまに関するよくある質問
やせうまは食事ですか、それともお菓子ですか?
一般には、きな粉と砂糖をまぶして食べるおやつ、または郷土菓子として扱われます。
小麦粉の生地を使うため腹持ちがよく、間食として親しまれてきました。
やせうまはどこの地域の郷土料理ですか?
大分県の郷土料理です。
発祥地は由布市古野とされますが、現在は県内各地で知られています。
やせうまの名前は本当に「やせた馬」が由来ですか?
一般に伝えられる由来は、乳母の「八瀬」と、若君が食べ物を求めた「うま」という言葉を結びつけるものです。
ただし一説であり、史実として断定できる由来ではありません。
だんご汁と同じ生地を使えますか?
基本となるのは、どちらも小麦粉と水をこねて平たく延ばした生地です。
ただし、家庭や市販品によって生地の配合、厚さ、幅が異なる場合があります。
やせうまは一年中食べられますか?
特定の季節だけに限られる料理ではなく、日常のおやつとして一年を通して食べられます。
一方で、由来の地とされる妙蓮寺では、お盆の行事とも結びついています。
まとめ
やせうまは、小麦粉の生地を平たく長く延ばしてゆで、きな粉と砂糖をまぶす大分県の郷土料理です。
もちもちとした生地ときな粉の香ばしさを楽しめる、素朴なおやつとして親しまれています。
大分県で古くから発達した粉食文化を伝える料理の一つで、同じような生地を使うだんご汁とは、甘いおやつか汁物かという点が異なります。
名前は、乳母の八瀬と若君の「八瀬、うま」という言葉から生まれたと伝わりますが、由来の一説として紹介するのが適切です。
家庭、学校給食、地域行事へと受け継がれるやせうまは、大分の暮らしと小麦の食文化を今に伝える郷土の味です。

