「白眉」は「はくび」と読み、同じ種類の人や物がいくつもある中で、最も優れているものを表す故事成語です。
人だけでなく、芸術作品、文章、演技、企画などにも使える、肯定的な褒め言葉です。
この言葉は、中国の歴史書『三国志』に登場する馬良という人物に由来します。
優秀な五人兄弟の中でも、眉に白い毛があった馬良が特に優れていると評判になり、「馬氏五常、白眉最良」と称されたことが始まりです。
ここでは、白眉の意味や使い方だけでなく、原典の記述、馬良の生涯、二字の故事成語として定着した経緯まで分かりやすく解説します。
「白眉」の意味・読み方・使い方
白眉の読み方は「はくび」です。
もともとは文字どおり「白い眉」を意味しますが、故事成語としては「多くの同類の中で、最も優れている人や物」という意味で使われます。
単に優秀であることを示すだけでなく、比較できる複数の候補の中で抜きん出ている、というニュアンスを含む言葉です。
そのため、何と比べて優れているのかが分かる文章で使うと、意味が伝わりやすくなります。
よく使われる形は次のとおりです。
・作品群の白眉
・候補者の中でも白眉である
・今回の公演の白眉といえる
・数ある名場面の中でも白眉だ
例文は次のようになります。
・今回展示された作品の中では、夕暮れの港を描いた一枚が白眉でした。
・彼女の発表は内容と説明の分かりやすさを兼ね備え、参加者の中でも白眉といえる出来でした。
・この小説の白眉は、対立していた二人が互いの事情を知る終盤の場面です。
・どの演奏も見事でしたが、最後の独奏はこの公演の白眉でした。
白眉は格調のある表現なので、日常会話よりも書評、講評、紹介文、ビジネス文書などで使われることが多い言葉です。
自分自身や自作を「白眉」と呼ぶと、自画自賛に聞こえる場合があります。
自分について使うより、第三者が人物や作品を評価する場面に適しています。
似た表現には「随一」「出色」「最高傑作」などがあります。
「随一」は同じ集団の中で第一であることを示すため、白眉に近い言い換えです。
一方の「圧巻」は、優れていることに加えて見る人を強く感動させる場面や部分にも使われるため、白眉と完全に同じ意味ではありません。
「白眉」が生まれた後漢末の時代背景
白眉の由来となった馬良は、後漢末から三国時代へ移る時期に生きた人物です。
字は季常といい、荊州の襄陽郡宜城県、現在の中国湖北省宜城市周辺の出身とされています。
当時の後漢王朝は各地の有力者を十分に統制できなくなり、曹操、劉備、孫権らが勢力を競っていました。
馬良の故郷である襄陽一帯も、政治と軍事の両面で重要な地域でした。
そのような時代に、馬良には四人の兄弟がいました。
『三国志』は、五人の兄弟がそろって才能による名声を得ていたと記しています。
この兄弟は一般に、字に「常」の字を含んでいたことから「馬氏の五常」と呼ばれたと説明されています。
ただし、『三国志』の馬良伝で名前と字を確認できるのは、馬良・季常と、その弟である馬謖・幼常です。
残る三人の詳しい名前や経歴は同伝に記されていないため、後世に伝わる兄弟全員の名前を確実な史実として扱うことはできません。
原典『三国志』馬良伝の「馬氏五常、白眉最良」
白眉の原典は、西晋の陳寿がまとめた正史『三国志』の「蜀書・馬良伝」です。
該当部分には次のように記されています。
馬良字季常、襄陽宜城人也。兄弟五人、並有才名。郷里為之諺曰、「馬氏五常、白眉最良。」良眉中有白毛、故以称之。
書き下すと、おおむね次のようになります。
馬良、字は季常、襄陽宜城の人なり。兄弟五人、並びに才名有り。郷里これが諺を為して曰く、「馬氏の五常、白眉最も良し」と。良、眉中に白毛有り、故にこれを称す。
現代語にすると、「馬良は字を季常といい、襄陽郡宜城県の出身である。五人の兄弟はいずれも才能で名を知られていた。郷里の人々は『馬氏の五常では、白い眉の者が最も優れている』という言葉を作った。馬良の眉には白い毛があったため、このように呼ばれた」という内容です。
原文の「白眉」は、初めから抽象的な褒め言葉として置かれたのではなく、眉に白毛のある馬良本人を示しています。
「最良」の「良」は「最もよい」という意味であると同時に、馬良の名にも重なります。
郷里の言葉は、馬良の外見と名前を生かして、五人の中で彼が第一であることを印象的に伝えたものと読めます。
なお、原典に現在の故事成語と同じ「白眉」の二字は存在しますが、まとまった表現は「馬氏五常、白眉最良」です。
後世には、その中の「白眉」が取り出され、「同類の中で最も優れたもの」を示す言葉として使われるようになりました。
馬良はなぜ「最も良し」と評されたのか
『三国志』は、馬良兄弟の才能を順位づける試験や具体的な競争があったとは記していません。
「白眉最良」は、あくまで郷里で語られていた評判として収録されています。
それでも、その後の馬良の経歴からは、劉備の陣営で重要な仕事を任されていたことが分かります。
劉備が荊州を治めるようになると、馬良は招かれて従事となりました。
劉備と諸葛亮が蜀へ向かった後も馬良は荊州に残り、諸葛亮と書簡を交わしています。
のちに呉への使者を命じられた際には、自ら挨拶の文案を作りました。
馬良伝は、孫権が彼を敬って待遇したと伝えています。
外交の相手である孫権から丁重に迎えられたことは、馬良の文章力や人物への信頼をうかがわせる記録です。
劉備が皇帝を称すると、馬良は皇帝の近くで仕える侍中に任命されました。
劉備が呉への東征を始めたときには、武陵へ派遣され、五渓と呼ばれた地域の諸族に協力を求めています。
現地の指導者たちは印や称号を受け、馬良の働きは劉備の意図に沿って進んだと記されています。
しかし、222年に劉備軍は夷陵の戦いで敗れ、馬良もこの戦いに伴う混乱の中で命を落としました。
馬良伝によると、亡くなったときは36歳でした。
郷里で才能を認められた人物は、外交や地域勢力との交渉を担いましたが、若くして戦乱に巻き込まれたのです。
「白眉」の故事は史実なのか
馬良は、後世の小説『三国志演義』だけに登場する人物ではありません。
陳寿が三国時代の歴史をまとめた正史『三国志』に伝が立てられている歴史上の人物です。
そのため、白眉の由来には史書上の根拠があります。
ただし、「馬氏五常、白眉最良」は陳寿がその場で聞いた言葉ではなく、馬良の郷里で語られていた諺として記録されたものです。
五兄弟の能力を客観的に測定して馬良が一位になった、という意味ではありません。
また、馬良の眉に白毛があったことも『三国志』には明記されていますが、現在確認できるのは史書の記述です。
「歴史上の人物と正史の記録に基づく故事であること」と、「郷里の評判まで現代の方法で検証できるわけではないこと」を分けて理解すると正確です。
日本で人から作品へ広がった「白眉」の用法
原典の白眉は、優れた人物である馬良を指す言葉でした。
現在の日本語では対象が広がり、人だけでなく、小説、絵画、演奏、研究、場面などにも使われます。
『精選版 日本国語大辞典』には、文字どおり白い眉を表す日本の用例として、900年ごろ成立の『菅家文草』が挙げられています。
一方、優れた人物を示す比喩的な用例には、1422年の『旱霖集』が示されています。
これらは辞書で確認できる収録例であり、日本での絶対的な初出を断定するものではありませんが、遅くとも室町時代には比喩として使われていたことが分かります。
さらに、夏目漱石の『吾輩は猫である』には、歴史小説を評価して「白眉」とする用例があります。
人物を指した中国の故事が、日本語では作品や表現の優れた部分にも使える言葉として定着していったことが分かります。
「白眉」に関するよくある質問
白眉は「しろまゆ」と読むのですか?
故事成語としての読み方は「はくび」です。
漢字の意味は白い眉ですが、「しろまゆ」と読む一般的な複合語として使うものではありません。
原典に「白眉」という言葉はそのままありますか?
「白眉」の二字は原典にあります。
ただし、原文は二字だけで完結しているのではなく、「馬氏五常、白眉最良」という郷里の諺として記録されています。
現在の「最も優れた人や物」という意味は、この一節から白眉が独立して定着したものです。
馬良の白い眉は作り話ですか?
『三国志』馬良伝には、馬良の眉の中に白い毛があったと明記されています。
したがって、少なくとも原典では外見上の特徴として扱われています。
ただし、現代に物的証拠が残っているわけではないため、「正史にそのような記録がある」と説明するのが正確です。
馬氏の五兄弟は全員の名前が分かっていますか?
正史『三国志』の馬良伝で確認できるのは、馬良と弟の馬謖です。
残る三人については、同伝に名前や詳しい経歴が記されていません。
インターネット上ではさまざまな名前が紹介されていますが、確かな典拠を確認できないものを史実として断定しない注意が必要です。
白眉と「泣いて馬謖を斬る」は関係がありますか?
どちらも馬氏に関係する故事ですが、内容は別です。
白眉の馬良と、街亭の敗戦後に処罰された馬謖は兄弟でした。
白眉は馬良の優秀さを褒める言葉であり、「泣いて馬謖を斬る」は規律を守るために親しい者でも処分することを表します。
まとめ
白眉は「はくび」と読み、同じ種類の人や物の中で最も優れているものを表す、肯定的な故事成語です。
中国の正史『三国志』蜀書・馬良伝にある「馬氏五常、白眉最良」という言葉に由来します。
五人兄弟はいずれも才能で知られていましたが、眉に白毛のあった馬良が特に優れていると郷里で評判になりました。
原典では白眉が馬良本人を指していましたが、後世には二字が独立し、優れた人物だけでなく、作品や演技、場面などにも使われるようになりました。
使うときは、比較する複数の人や物があることを意識し、「作品群の白眉」「公演の白眉」のように表すと自然です。


