海草と海藻は両方とも海域で生育するため、しばしば混同されます。
海草は種子植物であり、比較的はっきりと根・茎・葉の区別がありますが、海藻はこれらの区別がなく、根の構造が異なる点が主な違いです。
海藻の根は岩に固着するためのものであり、栄養吸収には関与しません(このため仮根とも呼ばれます)。
海藻の大部分は岩上に生育し、砂泥底には緑藻のイワズタ(イワヅタ)類や小型のものを除いてほとんど生育しません。
従って、これらの生物は異なる環境で生息しています。
海藻は波の強い岩礁海岸に生息しやすく、一方で海草は波の当たりにくい内湾や干潟のような環境によく見られます。ただし、一部の北方系の生物は波の強い岩礁にも適応して生息できます。
また、飲食店のメニューや加工食品には、海藻サラダと海草サラダの二つの表記が見られます。これらの表記に対して、一方は誤りと指摘されることがありますが、その指摘自体が正確ではありません。
海藻は「海の藻」と表記され、海中に生える様々な藻の総称を指します。コンブ・ヒジキ・モズク・ワカメ・アオクサノリ・テングサ・アオサ・アオノリなどがすべて海藻に分類されます。
一方で、海草は「海の草」と書かれ、海中に生える種子植物を指します。
同音異義語である「海藻」との区別のため、「うみくさ」とも呼ばれます。
アマモ・スガモ・ウミヒルモなどは、「モ(藻)」と呼ばれるが、これらは海草です。
海草は陸上の植物と同様に根、茎、葉があり、花を咲かせて種子によって繁殖します。
これに対して、海藻は胞子によって繁殖し、根、茎、葉が分かれていないため、見分ける際には根の有無がわかりやすいポイントです。
通常、食用とされるカイソウは、ワカメやヒジキなどが含まれ、これは「海藻」に分類されます。
従って、「海藻サラダ」が正しい表記であり、「海草サラダ」は誤りと指摘されることがありますが、厳密には「海藻サラダ」でも「海草サラダ」でも良いのです。
なぜなら、広義には海の植物全般を指して「海草」と呼ぶことができるからです。
海藻とは?
海藻(かいそう、英: Seaweed)は、藻類の中で目で簡単に見分けられる海洋産のグループを指す総称です。
藻類には海洋と淡水のものがあり、その中で海藻は海洋産の種を指します。ただし、微細藻類を含まず、肉眼で見て分かるほどの大きさのものが対象とされることが一般的です。
一方で、アマモなど海洋産でありながら、陸上植物と同じく根、茎、葉を持ち、花を咲かせる種子植物も存在します。
これらは「海草」と呼ばれ、海藻とは区別されます。海域に生息する種子植物はアマモ類など限られたものであり、生息環境も沿岸部に限られます。多くの海草は海藻とは異なり、砂泥底に生育します。
海藻は系統学的に異なる複数の分類群から成り立っています。そのため形態や生物学的性質には多様性が見られます。
海藻の分類分類
代表的なものは以下の三つの群です。
紅藻と緑藻はアーケプラスチダ(広義の植物)であり、褐藻はストラメノパイルです。詳細については各群の項を参照してください。ここでは代表的な海藻を挙げます。
褐藻類:ウミトラノオ、コンブ、ヒジキ、ヒバマタ、ホンダワラ、モズク、ラッパモク、ワカメ
紅藻類:アサクサノリ、テングサ
緑藻類:アオサ、アオノリ、カサノリ、サボテングサ、フサイワヅタ、ミル
生態
様々な形状の海藻
潮間帯から海底の数十メートルの深さまで分布します。
一般的に、緑藻は浅い場所に、紅藻は最も深い場所まで生息すると言われています(補色適応説)。
大型の種は主に褐藻類に見られ、熱帯の海域では大型な海藻が少なく、寒冷地域に多く見られます。
ほとんどの種が海底に根状の構造で固着しており、一部は一定の時期になると海面を漂流することもあります。
このような漂流するものは「流れ藻」と呼ばれています。岩礁海底に根を張り付いているため、海藻は岩礁海岸に主に分布しています。
温帯地域では一般的に、海藻の活動が最も盛んなのは春から初夏で、その後は不活発になります。
これは肥料分が制限要因であり、冬季に微生物の活動などで蓄積された肥料分が使い尽くされるまでが活動のピークだからと言われています。
海藻の役割とは?
海藻は重要な生産者でありつつ、小さな動物の生息地としても重要です。
岩礁海底の海藻のコミュニティは「藻場」と呼ばれ、多くの魚の稚魚の避難場所として機能しています。
近年、日本全国で藻場の減少が報告され、これを「磯焼け」と呼んでいます。
この現象は沿岸漁業にとっても重要な問題と見なされ、その原因や解決策が現在研究されています。
一部の対策としては、鉄鋼スラグの加工物を使用して海藻を育てるといった試みが行われています。
また、海藻は温暖化ガスである二酸化炭素を吸収する役割も果たしています。
そのため、藻場の形成やコンブの養殖は、海洋で二酸化炭素(カーボン)を吸収する「ブルーカーボン」の一環として位置づけられています。
海藻と食文化について
海藻には水溶性食物繊維が多く含まれており、これによって食後の血糖値の急激な上昇を抑える効果があります。
海藻は人間に必要な様々な栄養素を含んでいます。
日本では、海藻は食材として非常に重要です。
だし取りや煮物の素材として使用されるコンブ、漉いて紙状に乾燥させて佃煮や汁物の具材に使われる海苔、汁物や煮物の具材としてのワカメ、寒天や心太(ところてん)にして提供されるテングサ、主に煮付けに使われるヒジキ、酢の物として提供されるモズクなど、様々な料理において中心的な役割を果たしています。
また、褐藻・紅藻・緑藻のいずれにも属さない種類も、刺身の盛り合わせにおいて大根の千切りや大葉と共に彩りとして使われます。
日本以外の地域では、スコットランドやアイルランドなどのケルト系の文化が海藻を食用とする独自の伝統を持っています。
ダルス、イボノリ、ヒバマタ、ツノマタ、トサカモドキ、アオサなどが伝統的に食されてきました。
また、チリの沿岸地域に生息するダービリア・アンタルティカ(ダービリアまたはコチャユーヨとも呼ばれる)は、1万4000年前から汁物の具として食べられていました。
一方で、欧米諸国では海藻を食べる習慣がそれほど一般的ではなく、英語では海藻を「海の雑草」を指す「Seaweed」と呼ぶことが一般的です。
ただし、最近ではヘルシー志向の高まりとともに、欧米でも海藻を食材として活用する傾向が増え、その際には「Sea Vegetable(海の野菜)」と呼ばれることもあります。
フランスのロスコフ生物学研究所の研究チームは、日本人の腸が海藻に含まれる多糖類を分解できるのは、腸内に住む細菌が海洋性の微生物から取り込んだ分解酵素を作る遺伝子を持っているためだとする研究を発表しました。
この研究は、2010年4月8日に英科学誌『ネイチャー』(Nature)に掲載されました。
海藻にはアルギン酸塩(アルギネート)が含まれており、これは1881年に発見されました。
以降、アルギン酸塩は傷を早く治すための創傷被覆材や食品添加剤として利用されています。
その他の海藻の利用を紹介
アイルランド、スウェーデン、そして日本などでは、海藻を使用した伝統的な海藻風呂(シーウィードバス)が行われています。
日本の千葉県、茨城県、三重県、石川県などではカジメが、太平洋側ではアラメがよく利用されています。これらの海藻風呂には抗酸化作用が確認されています。
科学技術分野では、テングサから作られる寒天培地が微生物や細胞の培養に基本的な培地として利用されています。
また、バイオエタノールの製造において、他の食料と競合しにくく、安定した供給源となる海藻が有望視されています。
東京水産振興会などでは、大規模なバイオエタノール採取用の海藻類養殖計画が進行中です。
また、化石燃料に代わる燃料として研究されている微細藻燃料も存在します。
一部の海藻はヨウ素を蓄積し、かつては海藻の燃焼灰からヨードを抽出していました。現在は地下の化石海水からより安価にヨウ素を取得していますが、そのヨウ素も海藻が起源と考えられています。
海藻は水槽用のろ過装置や、カラギーナンの抽出材料としても利用されています。
また、古代中国では海藻から硝石を製造する方法が確立され、ヨード製造にも利用されました。
肥料としても広く使用されており、海藻は海岸近くの耕作地で古くから肥料として愛用されています。海藻を肥料に使用する利点として、有害な胞子や昆虫の卵、雑草の種子などが混入しにくく、陸上の動植物由来の肥料よりもミネラル成分や植物ホルモンが豊富であることが挙げられます。
海藻肥料は農地における塩分蓄積などの懸念はあるものの、その有用性は高いです。
海藻肥料に使用される主な海藻には、カジメ、アラメ、テングサ、ミール(英語版)などがあり、これらはアルギン肥料や焼いて灰にした海藻灰として広く利用されています。
海藻は動物飼料としても利用されており、例えばノース・ロナルドセー島のヒツジが海藻を摂取しています。
また、海藻の一種であるカギケノリを使った飼料には、牛のげっぷに含まれるメタンを抑制できるという研究もあります。さらに、水産物養殖などでも飼料として使用されています。
その他にも、海藻押し葉として標本化されたり、デンマーク沖のレス島や中国の山東半島沿岸部では、海藻のアマモが屋根材として使われたりしています。
海草とは?
海草(かいそう、英: Seagrass)は、海域で育つ一種の水草であり、種子植物に分類されます。
海藻と呼ばれる藻類の胞子繁殖とは大きく異なる特徴を持っています。
ただし、「海藻」という言葉が同音異義語であり、両者が混同されることがあるため、区別のために海草を「うみくさ」と呼ぶこともあります。
海草の特徴
海草は、海域の中で比較的浅い沿岸域の内湾や干潟、汽水域、礁池(イノー)などで生育します。
多くの種は乾燥に弱く、干潮時でも潮下帯以下で海水に浸かる状態を好みます。ただし、コアマモのように乾燥に強く、潮間帯で生育する種も存在します。
海草の形態
海草は全て単子葉植物であり、根、茎、葉の区別があります。
茎(根茎)は地下茎として匍匐する種が多く、水中に伸びた葉を支える根は砂泥にしっかりと広がります。
したがって、大部分の種は砂泥底域に生育しますが、スガモやエビアマモなどは岩礁域に生育し、根を岩盤の窪みや割れ目に入り込ませて固定します。
葉はウミショウブやボウバアマモのように細長い形状と、ウミヒルモ属のような小判型の形状があります。
基本的には光合成を行う器官ですが、アマモは葉で海水中の栄養塩を取り込むことが知られています。気孔は退化しています。
海草の生態や生活の歴史
海草は多年草であり、花を咲かせて種子を通じて増殖します。
同時に、地下茎を分枝させて栄養繁殖を行う種もいます。
アマモやリュウキュウスガモなどは種子繁殖と栄養繁殖の両方で増殖しますが、熱帯性のリュウキュウアマモやベニアマモ、ボウバアマモなどは結実が難しく、ほとんどが栄養繁殖によって増殖します。
開花は熱帯性のリュウキュウスガモで9-1月(10月が最盛期)、ボウバアマモが7-9月、ウミショウブが6-9月、温帯性のコアマモが1-6月に観察されます。
結実はリュウキュウスガモでは7、8月以外は年間を通じて、ウミショウブは8-11月と1月に観察されています。
海草への進化
海草類は、他の種子植物と同様に最初に陸上植物として進化し、その後再び海域に適応して生息環境を戻したと考えられています。
これは、陸上で発達させた根や(地下)茎を利用して、砂や泥の多い環境にも適応したためです。
海草の分類と分布
世界にはアマモ科(Zosteraceae)、ポシドニア科(Posidoniaceae)、ベニアマモ科(シオニラ科、Cymodoceaceae)、トチカガミ科(Hydrocharitaceae)、イトクズモ科(Zannichelliaceae)、カワツルモ科(Ruppiaceae)の6科に約60種の海草が確認されています。
これらは熱帯から寒帯にかけて分布しており、多くの種は熱帯域・亜熱帯域に分布していますが、スガモやアマモの仲間は温帯域から寒帯域にも分布しています。
日本の海草類
日本では5科10属28種30亜種(4雑種を含む)の海草類が分布していると考えられています。
海草は日本列島近海の暖流と寒流が交わる条件に適しており、アマモ属が特によく見られます。
本州周辺海域ではアマモやコアマモがよく見られ、北海道周辺ではスガモが観察されます。南西諸島では海草類の多様性が高く、マツバウミジグサ、リュウキュウスガモ、ボウアマモ、ウミショウブなどが様々な場所で見られています。
海草藻場
海草藻場は、海草が密集している場所を指し、その中でもアマモが繁茂する場所はアマモ場と呼ばれます。
海草藻場は沿岸域に分布し、多くの海産生物の生息・繁殖の場となります。
また、海草藻場には有機物が蓄積し、ゴカイや魚類などが生息・繁殖する場として機能します。
ジュゴンやアオウミガメなどは、海草を食べるために海草藻場を利用します。
海草藻場は漁業やレクリエーションの場としても利用され、沿岸域の水質浄化にも寄与しています。
海草と人間との関係
海草藻場は漁業やレクリエーションの場として利用される他、海草を直接的に利用する例も見られます。
日本ではアマモを堆肥や塩の製造に利用することがあります。
また、スガモやエビアマモは海神行事に用いられ、鳥居に巻きつけられることもあります。
一方で、人間活動による影響で海草類は埋立や水質汚染などの影響を受け、海草藻場の変化や減少が報告されています。
まとめ
海藻の定義と特徴
海域に生育する植物で、藻類に分類される。
多くの種が海水中に浮遊し、岩や他の物体に付着して生育する。
海藻の構造と生態
根・茎・葉の区別がなく、一部のものを除いて根は岩に固着するためのもの(仮根)。
主に岩礁海岸や波の強い環境で生息し、海水中の栄養塩を吸収する。
海藻の分類と種類
アマモ科、ポシドニア科、ベニアマモ科など6科に約60種が存在。
熱帯から寒帯まで分布し、海藻藻場などで群生する。
海藻の利用と関係
漁業やレクリエーションの場として利用。
有機物の蓄積により、底生生物や魚の生息・繁殖場となる。
ブルーカーボンとして知られ、温暖化ガスの吸収に寄与する。
海草の定義と特徴
水草の一種で、種子植物に分類される。
根・茎・葉の区別があり、岩や底質に根を張りながら生育する。
海草の構造と生態
根(地下茎)は広く広がり、茎や葉を水中に伸ばす。
海域の浅い沿岸域や内湾、干潟、礁池などで主に生息。
海草の分類と種類
アマモやウミショウブ、スガモなどが存在し、世界に約60種が分布。
熱帯から寒帯まで広く分布し、特に内湾や波の弱い環境に適応している。
海草の利用と関係
漁業やレクリエーションの場として利用。
海草藻場として海産生物の生息・繁殖の場となる。
ブルーカーボンの一環として、温暖化対策や水質浄化に寄与する。
海藻と海草は両者とも海域に生息するが、海藻は藻類に属し、根の構造が主に岩に固着するためのものである。
一方、海草は種子植物であり、根・茎・葉の区別があり、水底に根を張りながら生育する。
それぞれの生態や分布、利用面で異なる特徴があり、海洋生態系において重要な役割を果たしている。