くわいの甘煮の主な伝承地域は、広島県福山市で、主な使用食材は、くわい、くちなしの実、だし汁、砂糖、みりんになります。
広島県福山市で親しまれているくわいの甘煮は、だし汁をベースに砂糖とみりんで仕上げる、甘みが特徴的な煮物料理です。
「くわい」という名前は、土を掘り返す農具の「鍬」に似た形状の葉の下に実る芋から来ており、転じて現在の呼び名になったと言われています。日本国内で主に栽培されているのは「青くわい」という種類で、福山市はこの品種の国内最大の生産地として知られています。「青くわい」は美しい藍色の丸い形が特徴で、「田んぼの宝石」とも称されています。
くわいは芽がしっかりと伸びることから「芽が出る」象徴として縁起が良いとされ、主にお正月の料理や祝い事の席で煮物として用いられます。福山市産のくわいは、特におせち料理向けの需要が高く、収穫と出荷は11月から12月に集中しています。
福山市の気候条件は、瀬戸内海特有の温暖な気候と日照時間の長さから、くわい栽培に適しています。
その歴史は、明治時代に当地の沼地で自生していたくわいを福山城周辺の土地で栽培し始めたことに遡ります。また、江戸時代には用水路の整備によって安定的な水の供給が可能になったことが、栽培の広がりを後押ししました。
くわいは縁起物としてお正月料理でよく用いられます。
江戸時代には武家の正月料理として食され、明治以降、一般家庭にもその習慣が広まりました。
昭和の時代になると、デパートなどで販売されるおせち料理に取り入れられたことで、全国的に普及しました。特に収穫期である11月から12月に旬を迎え、その時期の地元では家庭でも調理されます。
ゆでたくわいは芽を残して皮をむき、砂糖とみりん、くちなしの実を加えた煮汁で柔らかく煮ます。
一晩置くことで味がしっかり染み込みます。その他にも、素揚げ、サラダ、チップスなど、多彩なアレンジ料理でも楽しまれています。
福山市のくわいは、農林水産省が定める地理的表示(GI)保護制度に登録されており、高い品質基準を維持しています。
生産者組合による徹底した管理や、地域の歴史と伝統を大切にした取り組みが評価されています。また、SNSなどを活用した情報発信や商品化も進んでおり、現代の消費者にも広く親しまれる努力が続けられています。
くわいの甘煮のレシピと材料
材料(4人分)
くわい:200g
くちなしの実:1~2個
調味料
出汁:1.5カップ
砂糖:大さじ3
みりん:大さじ2
塩:少々
作り方
1:くわいをゆでる
表面に軽くひびが入るまで火を通します。
2:皮をむく
ゆでたくわいを冷まし、芽を残して丁寧に皮をむきます。
3:煮汁を準備
調味料を鍋に入れ、つぶしたくちなしの実を小袋に入れて一緒に加熱します。
4:くわいを煮る
煮汁に皮をむいたくわいを入れ、じっくりと煮ます。仕上がりを良くするため、一晩寝かせると味がより深まります。
クワイについて紹介
クワイ(学名:Sagittaria trifolia L. ‘Caerulea’)は、オモダカ科オモダカ属に属する多年生の水生植物で、オモダカを品種改良して作られたものです。
日本では「田草」「燕尾草(えんびそう)」「クワエ」など、地域に応じたさまざまな呼び名があり、食用として古くから栽培されてきました。
名前の由来
「クワイ」の語源には複数の説があり、正確な起源は不明とされています。主に以下のような説があります。
葉の形が鍬(くわ)に似ているため
「鍬の刃の形をした植物の芋」から「くわいも」と呼ばれるようになり、それが「クワイ」へと変化したという説があります。
川芋(かわいも)からの転訛
水生植物の性質から「川芋」と呼ばれていたものが、「クワイ」に変化したと考えられています。
栗の風味に由来する説
若い栗のような味わいから「クワイグリ」と呼ばれ、それが省略されて「クワイ」になったとする説もあります。
中国では「慈姑」という漢字が当てられています。これは「慈愛深い母親が子を養う姿」をイメージしたものとされますが、この漢字表記と日本語の「クワイ」に直接的な関係は確認されていません。
クワイの分布と歴史
クワイは、アジア、ヨーロッパ、アメリカなど、温帯から熱帯にかけて広く分布しています。
野生種のオモダカは東南アジア原産とされていますが、クワイの栽培品種は中国で作られたとされ、原産地も中国と見なされています。日本では江戸時代から栽培が盛んになり、現在では一部地域で特産品として栽培されています。
生態と特徴
クワイは単子葉植物で、水田での栽培に適しています。茎や葉の成長とともに匍匐茎を伸ばし、その先端に塊茎を形成します。
塊茎は青みを帯び、外側は薄い鱗片に包まれています。草丈は1メートル以上に達し、矢尻型の葉を持つのが特徴です。生育は、栄養成長期(夏)と生殖成長期(秋~晩秋)に分かれ、晩秋には塊茎が肥大します。
クワイの種類
日本で栽培されるクワイには主に以下の3種類があります。
青クワイ
日本国内で最も一般的な品種で、丸みを帯びた塊茎が特徴。ほくほくした食感と軽い苦味があり、正月料理などで利用されます。
白クワイ
主に中国で栽培され、日本ではほとんど見られません。塊茎は白っぽく、シャリっとした食感と苦味が特徴です。中華料理に多用されます。
吹田クワイ
野生種に近い品種で、小ぶりながら味が良いのが特徴。苦味が少なく、緻密な肉質を持ちます。
栽培と利用
クワイは7月頃から田んぼで育てられ、秋になると塊茎が収穫されます。収穫されたクワイは煮物や揚げ物に使われるほか、地域によってさまざまな料理にアレンジされ、特にお正月料理の定番食材として親しまれています。
クワイの歴史と利用法
クワイが日本に伝わった正確な時期は不明ですが、奈良時代(8世紀)には存在していたとされています。
江戸時代には京都や大阪、江戸周辺を中心に生産が盛んになり、特に天明の大飢饉の際には救荒作物として重要な役割を果たしました。
明治期には関東から関西の広い範囲で栽培されましたが、太平洋戦争中は戦時下の統制品となり栽培が抑制されました。
戦後には栽培が再開されるも、都市化や農地減少により、戦前よりも規模が縮小。一時は稲作転換政策の影響で栽培面積が増えましたが、その後は再び減少傾向が続いています。
栽培方法
クワイは水田を利用して栽培され、適切な水管理が必要です。
植え付けには前年収穫した種球を使い、準備の段階で冷蔵保存したものを徐々に外気に慣らします。
田植え前には土を耕し、水を張って代かきした後に植え付けます。夏場には茎葉が成長する時期で、この間に適切な追肥や間引きを行い、さらに地下茎を整える作業をすることで塊茎の質を高めます。
晩秋になると収穫期を迎え、レンコンと同様に水圧を利用して根茎を掘り起こす方法などが用いられます。
食用と加工品
日本と中国では食用として親しまれており、日本では縁起物として正月のおせち料理に使われることが一般的です。
旬は11月から4月で、芽が整ったものが高品質とされます。調理する際はアク抜きが必要で、含め煮や揚げ物、鍋物に利用されます。
また、加工品としてクワイチップスや焼酎なども生産されています。
栄養面では炭水化物が豊富で、カリウムや葉酸、ポリフェノールなども多く含まれており、健康維持にも役立つとされています。
地域での取り組み
埼玉県越谷市では、クワイを使った地ビールや「縁起コロッケ」など、地元特産品としての普及活動が進められています。広島県福山市でもスナック菓子や焼酎などの商品が展開され、大阪府吹田市では特産のクワイを活用した焼酎が販売されています。
まとめ
くわいの甘煮は、おせち料理の定番として知られる一品で、くわい特有のほろ苦さとほのかな甘味を活かした料理です。縁起の良い「芽が出る」形状が新年を祝う場面で重宝されます。
くわいの甘煮は、おせち料理の定番として知られる一品で、くわい特有のほろ苦さとほのかな甘味を活かした料理です。縁起の良い「芽が出る」形状が新年を祝う場面で重宝されます。