破天荒とは、故事成語の一つです。その意味は、「これまでに人が成し得なかったことを初めて行うこと」や、「先人が辿り着かなかった領域に挑むこと」を指します。
読み下しでは、「天荒を破る」と表記されます。
2008年(平成20年)に日本の文化庁が実施した「国語に関する世論調査」によると、64.2%の日本人が「大胆で勇敢な様子」と解釈し、または誤って使用していることが明らかになりました。なお、このような誤解や誤用は、大正時代にすでに広まっていた痕跡があります。
破天荒の意味は誤用している人が多い?
破天荒の意味は、大胆で型破りな様子ではなく、小学館の「デジタル大辞泉」を見てみると「前人がなしえなかったことを初めてすること。また、その様子。」と書かれているように誰もできなかったことをする、というのが、「破天荒」の意味です。
型破りな人間だからこそ、誰もできなかったことを成し遂げられたのかもしれません。しかし、「破天荒」の意味は型破りであること自体ではありません。
ですが「破天荒」の意味を知らなかったのは、少数派ではなく多数派になっています。
文化庁が全国の16歳以上を対象として2021年に行った「国語に関する世論調査」において、破天荒の意味を正しく答えられたのは、回答者3,794人のうち23.3%でした。65.4%は「豪快で大胆な様子」と答えました。
そのため、結構な確率で破天荒を誤用している人が多いことになります。
ですが漢字の意味の誤用は破天荒に限らずいつの時代にもあり、誤用のほうが時代の変化と共に正式な意味になることもあります。
破天荒の由来や起源を紹介
中国・宋代の説話集『北夢瑣言』に起源がある。
唐代の中国では、王朝成立から100年以上が経過しても、荊州(現在の湖北省)から科挙と呼ばれる官吏登用試験に合格する者が現れず、人々はこの状況を「天荒」と呼んでいました。
本来、「天荒」とは「未開の地」や「凶作により雑草が生い茂る状態」を指します。
ある時、劉蛻(りゅうぜい)という人物が荊州出身者として初めて科挙に合格すると、人々は「天荒を破った」という言葉を用いるようになったのです。
以前の説では、天地が未開の混沌状態(天荒)を打ち破り開く意味があります。
現代の日本語では、「破天荒」という言葉は主に「大胆で型破りな」様子を表現するために使われます。しかし、本来の「破天荒」の意味とは若干のずれが生じています。
文化庁は「国語に関する世論調査」の中で、「破天荒」の意味の理解についてアンケートを実施しています。
その結果、過半数の人が「破天荒=大胆で豪快な様子」という、本来の意味とは異なる解釈をしており、本来の意味で理解している人は2割前後にとどまっているというデータが得られました。
「破天荒」の意味が「豪快・型破り」と認識されがちな理由は、言葉の字面から「荒々しさ」や「型破り」のイメージが連想されやすいためと考えられます。
本来の「誰も成し得なかったことをする」という意味では、「前代未聞」や「未曾有」といった代替表現が多く存在していたことも要因の一つかもしれません。
破天荒を別の言葉で言い換えるとどのようなものがあるの?
「破天荒」は、日本語における独特な表現であり、他の言葉に置き換えることは難しいですが、類似の意味を持つ言葉や表現はいくつかあります。
前代未聞(ぜんだいみもん):これまでに聞いたことがないほど驚くべき出来事や事象を指します。他の言葉で「破天荒」に近い意味を持ちます。
異例(いれい):通常の枠組みや想定から外れることを指します。予想外の出来事や行動を示す際に使われます。
画期的(かっきてき):新しい時代や状況を切り開く、重要な変化や進歩を意味します。これも「破天荒」に近い意味を持ちます。
斬新(ざんしん):新しくて斬り立てるような、今までにないアイデアやアプローチを指します。通常の常識から外れたアプローチを表現する際に使われます。
先駆的(せんくてき):他の者よりも先んじて進んで行動することを意味します。新しい領域やアイデアの開拓者を指す際に使われます。
これらの言葉や表現は、「破天荒」の持つ意味やニュアンスに近いものですが、それぞれ微妙に異なるニュアンスや使用法があります。場面や文脈に応じて適切な言葉を選ぶことが大切です。
破天荒の対義語を紹介
破天荒の対義語として考えられる言葉や表現には、以下のようなものがあります。それぞれの対義語について紹介します。
保守的(ほしゅてき):伝統や既存の価値観を守ろうとする姿勢を指します。変化を嫌う傾向があり、「破天荒」のような大胆な行動や考え方とは対照的です。
慎重派(しんちょうは):行動や意見を慎重に考え、リスクを避ける傾向がある人々を指します。新しいアイデアや行動を採用するよりも、安定したやり方を好む傾向があります。
伝統的(でんとうてき):古い方法や慣習にこだわり、それを守ろうとする姿勢を指します。新しいアイデアや変化を拒絶する傾向があります。
順応的(じゅんのうてき):変化や新しい状況に柔軟に対応し、状況に適応する能力を指します。一方で、革新的な行動よりも既存の状況に順応することを重視する傾向があります。
慣習に従う(かんしゅうにしたがう):一般的な慣習や規範に従い、それに適合するように行動することを指します。革新的な行動や考え方よりも、既存の慣習やルールに従うことを重視します。
これらの対義語は、「破天荒」の持つ大胆さや革新性とは対照的な概念を表しています。人々の行動や考え方は、これらの要素のバランスによって形成されることがあります。
破天荒の例文を紹介
破天荒を使った例文をいくつか紹介します。
例文:彼の提案は破天荒だが、それが私たちの問題を解決する唯一の方法かもしれない。
この例文では、「破天荒」は大胆でありながらも革新的な提案を指しています。それが従来の方法とは異なるが、問題解決の新しいアプローチとして期待されています。
例文:彼女の破天荒な行動は、社会に革命をもたらす可能性がある。
この文では、「破天荒」は社会的な変革や革命を引き起こすような極めて大胆で斬新な行動を指しています。彼女の行動が従来の社会の枠組みを打ち破り、新たな変革をもたらす可能性があることを示唆しています。
例文:その映画は破天荒なストーリーラインと斬新な演出で、観客を圧倒した。
この文では、「破天荒」は映画のストーリーや演出が通常の枠組みから逸脱し、予測不可能で斬新なものであることを指しています。それによって観客が驚きや感動を味わったと示唆しています。
例文:そのアーティストは破天荒なアート作品で、伝統的な美学を覆すことに成功した。
この文では、「破天荒」はアーティストの作品が伝統的な美学や規範から逸脱し、新しい芸術的表現を提示したことを指しています。その結果、伝統的な概念に挑戦し、新しい美的価値観を創造したと示唆されています。
これらの例文は、「破天荒」が大胆で斬新な行動やアイデアを指すことを示しています。それによって、従来の枠組みや規範に挑戦し、新しい視点や革新的なアプローチを示すことができます。
北夢瑣言とは?
『北夢瑣言』(ほくむさげん)は、中国の南宋時代に生きた紀昀(きうん)によって編纂された説話集です。
紀昀は南宋の嘉定年間(1208年 – 1224年)に生まれ、その生涯の大部分を文学や文化の振興に捧げました。彼は中国の伝統的な故事や言い伝えを集め、『北夢瑣言』という書籍にまとめました。
『北夢瑣言』は、全20巻から成り、多様な話題を扱っています。その中には、神話や民間伝承、風俗・風習、歴史上の逸話、医学や天文学に関する知識などが含まれています。
紀昀は、中国の豊かな文化遺産を後世に伝えることを目指し、さまざまな話を収集しました。
『北夢瑣言』はその内容の多様性や故事の興味深さから、中国文学や文化研究の重要な資料として位置づけられています。
また、後の時代においても多くの文人や学者によって引用や研究が行われ、中国の伝統文化の理解に貢献しています。
まとめ
破天荒は、日本語の表現であり、大胆で斬新な行動やアイデアを指す言葉です。その起源は中国の宋代の説話集『北夢瑣言』に由来します。
当初は、唐代の中国において、科挙と呼ばれる官吏登用試験に合格することが非常に珍しい状況を指して使われていました。特に、劉蛻という人物が荊州から初めて科挙に合格した際に、「天荒を破った」という言葉が生まれたとされています。
現代の日本語では、「破天荒」は通常、「大胆で型破りな」さまを形容する語として使われます。
しかし、本来の意味としては、誰も成し得なかったことを成し遂げる、あるいは未曾有の状況や領域を打ち破ることを指します。つまり、従来の枠組みや慣習を超えて、新しい領域やアイデアを開拓する行為を表現します。
また、近年の調査では、「破天荒」の意味を正しく理解している人は決して多くなく、多くの人が「豪快で大胆な様子」と誤解していることが分かっています。
これは、言葉の字面から「荒々しさ」や「型破り」のニュアンスが連想されやすいためであり、本来の意味とは異なる解釈が広まってしまった結果と考えられます。
総括すると、「破天荒」は大胆で斬新な行動やアイデアを表す言葉であり、従来の枠組みや慣習を打ち破って新しい可能性を開拓する精神を象徴しています。