石に口をすすぎ流れに頭を預けるは(いしにくちすすぎ ながれにまくらす)と読みます。
意味は、自分の誤りを巧みにごまかし、言い逃れすること。強い負け惜しみの表れになります。
石に口をすすぎ流れに頭を預けるの由来を紹介
晋の孫楚という人物が隠居する際、友人に「石に枕し流れに漱ぐ」と言うべきところを、逆に「石に漱ぎ流れに枕す」と言ってしまった。
友人からそのことを指摘されると、彼は「石で口をすすぐのは歯を磨くためで、流れに頭を預けるのは耳を洗うためだ」と無理やり説明したことが、この言葉の由来になります。(『晋書』)
晋書について紹介
『晋書』(しんじょ)は、中国の歴史書で、晋朝(西晋と東晋)の歴史を記録した書物です。
全130巻からなり、主に紀伝体という形式で記述されています。これは皇帝の事績を記した「本紀」、名臣や重要人物の伝記を記録した「列伝」、制度や風俗について記した「志」、重要な年次の出来事を年表にまとめた「年表」によって構成される歴史書のスタイルです。
成立の背景
『晋書』は、唐の太宗(李世民)の命により、648年に完成しました。
当時、晋朝の歴史に関してはまとまった史書が存在していなかったため、唐の時代に入ってからまとめられることになりました。房玄齢(ほうげんれい)、李延寿(りえんじゅ)などの当時の著名な学者たちが編纂に携わりました。
内容構成
『晋書』は、以下の構成で書かれています。
本紀(10巻): 晋朝の皇帝の事績を記録。晋の創始者である司馬懿、その子孫である西晋の司馬炎(晋の武帝)や東晋の歴代皇帝の治世について詳しく書かれています。
志(20巻): 政治制度、法律、経済、天文、宗教、祭祀など、晋朝における文化や制度をまとめたものです。
列伝(70巻): 皇帝以外の重要な人物、例えば軍人、学者、政治家などの伝記が収録されています。西晋から東晋にかけて活躍した名臣や将軍たちの事績が伝えられています。
年表(30巻): 晋の年次に沿った主要な出来事を年表形式でまとめたものです。
晋朝の歴史
晋朝は、魏・蜀・呉の三国時代を終わらせた魏の後継国家です。西晋は一時的に中国を統一しましたが、やがて内乱や異民族の侵入により短命に終わりました。その後、晋王朝は南へ逃れ、東晋として約100年間存続しましたが、最終的には南北朝時代に移行します。
西晋(265年-316年): 司馬炎(晋の武帝)によって建国され、280年に呉を滅ぼして一時的に中国全土を統一しました。
しかし、豪族や宮廷内の権力争い、八王の乱などの内乱が発生し、内部分裂を招きました。また、異民族の侵入が相次ぎ、最終的には洛陽や長安が陥落し、西晋は滅亡します。
東晋(317年-420年): 西晋滅亡後、司馬睿(晋の元帝)が南方の建康(現在の南京)を拠点に東晋を建てました。東晋は南方で異民族の侵入を防ぎつつ、内部の豪族との権力争いに悩まされ続けましたが、一部の名臣や将軍によって政権は維持されました。
晋書の意義
『晋書』は、晋朝の歴史を知る上で重要な資料であり、当時の文化、政治制度、外交、戦争の詳細な記録を提供しています。
また、後世の歴史家にとっても、晋代の社会や風俗、思想を知るための貴重な文献とされています。特に、八王の乱や西晋の滅亡、東晋の建国といった歴史的に重要な事件が詳しく書かれており、中国の政治的な統一と分裂の過程を理解する上で不可欠です。
関連する他の史書
『晋書』と同時代を扱う他の史書として、以下のものがあります。
『資治通鑑』(しじつがん): 司馬光によって編纂された中国の通史で、晋朝を含む幅広い時代の歴史を記録しています。晋代の記述も豊富です。
『華陽国志』(かようこくし): 晋代に成立した歴史書で、特に四川地方に関する歴史が詳しく書かれています。
このように『晋書』は、晋朝という中国史における重要な時代の記録を詳細に伝えており、歴史的・文化的価値の高い書物です。
石に口をすすぎ流れに頭を預けるの故事成語を使った例文を紹介
例文1:「彼は自分の発言ミスを指摘されたとき、石に口をすすぎ流れに頭を預けるような言い訳をして、かえってみんなを困惑させた。」
解説:この例文では、発言のミスを認めず、むしろ誤りを正当化しようとして、ますます意味不明な言い訳をしている場面を表しています。このような行動は、無理やり言い逃れをしようとする負け惜しみの典型的な例です。
例文2:「石に口をすすぎ流れに頭を預けるような彼の説明には誰も納得せず、結局、彼の嘘が明らかになった。」
解説:この例文では、相手が誤りを認めずに無理な説明をした結果、周囲から信じられず、最終的には嘘がばれてしまう状況を描いています。成語が、誤りを隠すために不自然な言い訳をすることを象徴しています。
例文3:「上司に叱られた彼は、『そんなつもりで言ったのではない』と、石に口をすすぎ流れに頭を預けるような弁解を繰り返していた。」
解説:この例文では、上司に叱られた人が、自分の行動や発言を正当化しようとして、無理な説明をしている場面を表しています。彼は、間違いを認めずに何とか言い逃れをしようとしていますが、その弁解は無理があります。
例文4:「彼女は、自分の論文のミスを指摘されても、石に口をすすぎ流れに頭を預けるように、自信満々で誤りをこじつけた。」
解説:ここでは、論文のミスを認めず、無理に自分の論を擁護しようとする様子を表しています。成語が使われることで、その態度がいかに強引で正当性に欠けるものであるかが強調されています。
例文5:「彼は、プレゼン中のミスを突かれても、石に口をすすぎ流れに頭を預けるかのように、『わざとです』と言い張った。」
解説:この例文では、プレゼンテーション中のミスを指摘されても、故意だと主張して言い逃れを試みる様子が描かれています。ここでは「わざとです」という言い訳がまさに無理なこじつけであることが、成語を通して表現されています。
例文6:「プロジェクトの失敗を責められた彼は、石に口をすすぎ流れに頭を預けるような言い訳をして、責任を他人に押し付けようとした。」
解説:プロジェクトの失敗を自分の責任とせず、無理に他者に責任を転嫁しようとしている状況です。この場合、彼の言い訳がいかに根拠のないものであるかを、成語が表現しています。
例文7:「彼は試験に落ちた理由を、勉強時間が短かったのではなく、問題が難しすぎたと言い張り、まるで石に口をすすぎ流れに頭を預けるようだった。」
解説:ここでは、試験に落ちた原因を正しく認めず、試験問題のせいにしている様子を描いています。自分の準備不足を棚に上げ、他の理由を強引に挙げて正当化する姿が、まさに負け惜しみの例です。
例文8:「友人が約束を破った言い訳として、『時間を間違えたんじゃなくて、あえて遅れたんだ』と言うのを聞いて、まさに石に口をすすぎ流れに頭を預ける瞬間だと思った。」
解説:約束を守れなかった理由を、誤りではなく、あえてやったことだと言い訳している場面です。この無理な弁解が、成語を通して効果的に表現されています。
まとめ
「石に口をすすぎ流れに頭を預ける(いしにくちすすぎ ながれにまくらす)」は、中国の晋代の逸話に由来する故事成語で、自分の誤りを認めず、無理な言い訳やこじつけでごまかすことを表しています。
由来
この成語は、中国の晋の時代の人物、孫楚(そんそ)にまつわる話から生まれました。孫楚は隠遁生活を送る際に、友人に「石に枕し流れに漱ぐ(石に頭を乗せ、流れの水で口をすすぐ)」と言うつもりでしたが、「石に漱ぎ流れに枕す」(石で口をすすぎ、流れに頭を乗せる)と、言葉を逆に言ってしまいました。
友人からその間違いを指摘されたとき、孫楚は負け惜しみで「石で口をすすぐのは歯を磨くため、流れに頭を乗せるのは耳を洗うためだ」と無理やりこじつけて説明しました。このエピソードが元になり、誤りを素直に認めず、言い逃れやごまかしをする態度を指す言葉として、「石に口をすすぎ流れに頭を預ける」という成語が生まれました。
意味
自分の間違いを認めず、無理にこじつけて言い訳をすること
負け惜しみが強い態度を指す
誤りを正当化しようとして逆におかしな言い訳をしてしまう様子
この成語は、特に自分の非を認めたくないときに、苦し紛れに理屈をこじつける状況を表すのに使われます。
例えば、他人に指摘されたときに素直に謝罪せず、かえって不自然な言い訳をしたり、自分の間違いを頑なに認めようとしない態度に対して使われます。
関連する人物
孫楚(そんそ): 西晋の政治家であり、文学者としても知られています。彼の負け惜しみの強さから生まれたこの成語は、後世まで語り継がれています。
備考
この故事成語に由来する有名な例として、明治時代の作家夏目漱石(なつめそうせき)の名前があります。彼はこの「漱石」という語を好み、自らのペンネームにしました。