畳語(じょうご)は、言葉やその一部を構成する形態素などの単位を反復させて作られた単語であり、合成語の一種です。
この形成過程を重畳(ちょうじょう)または重複(ちょうふく)とも呼びます。
畳語は、次のような俗語的な表現として、世界中の言語で見られます。
幼児語(「おめめ」)やそれに類する愛称(「タンタン」)
オノマトペ(「ガタガタ」)
強調(「とってもとっても」)(「ながなが」)(「ゆるゆる」)
呼びかけ(「おいおい」「こっちこっち」)
言語によっては、畳語がこれ以外にもさまざまな文法的機能を果たすことがあります。
畳語とオノマトペの違い
畳語(じょうご)とオノマトペは、言語学の文法や表現の面で異なる特徴を持つ言葉の形態です。
畳語(じょうご)
定義: 畳語は、同じ形を繰り返すことによって新しい言葉を形成する言葉の形態です。日本語では、名詞や副詞などが畳語になります。
例: 「山々」、「人々」、「走り出す」、「読み読みする」など。同じ単語を繰り返して表現され、複数や継続の意味を強調します。
オノマトペ
定義: オノマトペは、物事の音や動作を模倣して言葉にしたもので、直感的に音や動作を表現するために使われます。
例: 「ガタガタ」(物ががたがた鳴る音)、「ピカピカ」(光がきらめく音)、「ワンワン」(犬の鳴き声)など。音や動作を模倣しており、直感的に理解しやすい表現です。
畳語とオノマトペの違い
畳語は同じ形を繰り返して新しい言葉を作り出す形態であり、主に複数や継続の意味を持たせます。
オノマトペは音や動作を模倣して言葉にしたものであり、直感的に音や動作を表現します。感覚的な印象を伝えることが目的です。
畳語は単語や語句の形成において使用されますが、オノマトペは感覚的なイメージを伝えるために使われます。
言語によっては、畳語とオノマトペの境界が曖昧で、一部の言葉が両方の特徴を持つことがあります。しかし、基本的な違いは、畳語が同じ形を繰り返して新しい意味を形成するのに対し、オノマトペは音や動作を模倣して直感的な印象を伝える点にあります。
妖怪は畳語を使わない
日本に伝わる逸話なのですが、妖怪は畳語と使わないので妖怪と人間を見分けるために畳語が発展したという話があります。その逸話を紹介します。
「ひとこえさけび」
妖怪や幽霊が人に声をかける時、なぜか同じ言葉を繰り返すことはしない。
岐阜県大野郡の山では、その習慣を守り、人と人が呼び合う場合は必ず二回繰り返して呼び合うと伝えられている。
もしも妖怪や幽霊の一声に反応してしまうと、良くないことが起こると信じられていたからだ。
沖縄でも、夜に声をかけられたら必ずふた声で返事をしないと、妖怪や幽霊と見なされてしまうという風習があった。
長野県には一声オラビという怪異も伝わっているが、オラビとは「叫ぶ」ということなので、一声叫びとほぼ同じ妖怪や幽霊だろうと思う。
ただ一声オラビの場合は、山が鳴動するなどの大がかりなイベントが付随するようなので、一声叫びよりもパワーがありそうだ。
声をかけて相手が妖怪や幽霊でないことを確認する、という部分では、逢魔が時(黄昏時のこと)もそうだ。
丁度相手の顔が見えにくくなるような時間であるから、二声「もしもし」と通りがかった人に声をかける。それに答えたのなら人間、答えが無かったのなら、それは妖怪や幽霊。
たそかれ時(誰そ彼時)たる所以である。
妖怪や幽霊は一声、という習慣がいつ出来たのかは調べきることができなかったが、確かに考えてみると呼び掛けに使う言葉は大体二言にして違和感の無いものしかない。
ねぇねぇ、もしもし、YoYo、やぁやぁ、などなど。
これももしかしたらそうした風習に根ざした名残なのかも、と思うとちょっとワクワクする。
ちなみに繰り返しの同じ言葉でできている言葉を「畳語」と言う。世界を見ても、一部の国を除いて畳語が多い国というのは珍しい。
これもまた幽霊のせいなのかもしれない。
畳語の由来や成り立ちとは?
畳語は、同じ形を繰り返して新しい言葉を構成する言葉の形態です。
この形態がどのようにして生まれ、成り立ってきたかについては、具体的な由来が確定しているわけではありませんが、いくつかの要因が影響していると考えられています。
音の反復による表現力の強調
同じ音や音節を繰り返すことで、言葉の響きや印象が強調され、感情や意味をより強烈に表現できるとされています。この強調効果を利用して、畳語が生まれた可能性があります。
口承文化や伝承の影響
古くから口承文化が根付いていた社会では、言葉の覚えや伝えやすさが重要でした。
畳語は簡潔で覚えやすい形態を持っており、口承文化の中で効果的に利用されてきた可能性があります。
伝統的な詩や謡曲の影響
古代の詩や謡曲などにおいて、音楽的な要素やリズムを重視する傾向がありました。
畳語はこのような音楽的な要素を取り入れることができ、文学や芸能表現の中で広く使用されてきました。
言葉遊びや風習の影響
言葉遊びや風習において、畳語が楽しみやすい形態であるため、これが広く受け入れられ、言葉遊びや風習の中で定着していった可能性があります。
畳語は、日本語だけでなく他の言語でも見られる形態であり、各言語や文化において異なる要因が影響している可能性があります。そのため、畳語が具体的にどのような文脈で生まれ、発展してきたのかについては、歴史的な文献や口承の中から詳しく解明されているわけではありません。
各国の畳語一覧
各国の畳語を調べたので一覧で紹介します。
日本語
日本語においては、以下に挙げるような畳語が特有の機能を果たしています。
名詞の複数を表す畳語: 「山々」「人々(ひとびと)」「国々(くにぐに)」「村々」「星々(ほしぼし)」「我々」「神々(かみがみ)」「日々(ひび)」「一人々々(ひとりびとり)」「交代々々(こうたいごうたい)」
副詞的表現: 「時々(ときどき)」「更々(さらさら)」「高々(たかだか)」「寒々(さむざむ)」「返す返す(かえすがえす)」「見る見る(みるみる)」「ますます」「飛び飛び(とびとび)」「食べ食べ」
ただし、名詞の複数を表す畳語は限られており、「山々」はあっても、「*岡々」のような言い回しはできません。
また、「出る本出る本(がベストセラーになる)」「行くところ行くところ(大歓迎を受ける)」のように、名詞句が畳語となることもあります。これによって、複数だけでなく個別性も表現されることがあります。
副詞的表現には、名詞(「時々」)、副詞(「さらに」を重ねた「更々」)、形容詞の語幹または語根(「寒々」「白々(しらじら)」)、漢字音(「揚々」)、動詞に由来するものなどがあります。
動詞については、終止形によるもの(「返す返す」など、あまり多くはなく慣用句的)と連用形によるもの(「食べ食べ」は「食べながら」という接続助詞の代わりとしての文法機能を持つ)があります。
名詞の畳語に「する」を加えた動詞(「子供子供した人」「官僚官僚していない」)は、そのものが表す典型的性質を持つことを意味します。
形容詞の部分畳語では「すがすがしい」「あらあらしい」など、畳語に「しい」を加えたものが見られます。
動詞の連用形によるもの以外では、「ひとびと」のように連濁が生じることがあります。
なお、動詞には「つづく」「とどく」「ひびく」のように部分畳語と思われるものが多く見受けられ、古くはこのような造語法が存在した可能性も考えられます(「たたく」など、一部はオノマトペにも見受けられるかもしれません)。
漢字1文字で繰り返される形態素の場合、2文字目は「々」で略記されます。昔は他の場合にも様々な踊り字が使われていましたが、現在ではほとんど使用されていません。
中国漢文
中国語の擬音語・擬態語には畳語が多く存在します。
これには完全畳語と音交替的畳語の両方が含まれます。
音交替的畳語には、声母(音節の最初の子音)を共有する「双声語」と、韻母(母音と音節の末尾の子音)を共有する「畳韻語」の2つのタイプがあります。
完全畳語:「呱呱 guāguā」(カラスやかえるの鳴き声)、「嘩嘩 huāhuā」(雨のざあざあ降る音)
双声語:「叮当 dīngdāng」(金属や磁器のぶつかる音)、「忐忑 tǎntè」(気が気でない様子)
畳韻語:「咕噜 gūlū」(空腹でおなかが鳴る音)、「轟隆 hōnglōng」(雷や爆発の音)
また、口語では使われないが、古典漢文の語彙にも擬音語・擬態語に由来する畳語があります。ただし、現代の使用では、これらの語の擬音・擬態的な感じは薄れています。
例:
「霹靂 pīlì」(雷の音)
「矍鑠 juéshuò」(カクシャク、厳格)
さらに、形容詞を畳語化することで意味を強調する用法もあります。これはしばしば副詞に転用されます。
「好」(よい) → 「好好儿(的/地)」(良好で、元気で、しっかりと)
「熱鬧」(にぎやかだ) → 「熱熱鬧鬧」(活気に満ちた、にぎやかな)
また、一部の1音節の名詞を重畳すると「すべての」という意味になることがあります。
「人人」(すべての人、みんな。≠人々)
「家家」(すべての家。≠家々)
最後に、動詞を2回繰り返すことで「ちょっと~する」という意味を表す用法もあります。ただし、これは畳語ではなく、動作量を表す補語の量詞に動詞そのものを転用した形式の省略形です。
「看一看(一回見る)」→ 「看看」(ちょっと見る)
インドネシア語
マライ・ポリネシア語族では、文法的な機能を持つ重畳が広く使用されています。その中でも最も知られたものは、複数を表すためのもので、例えば「Orang」(人)が「Orang-orang」(人々)となります。
この手法は、日本語とは異なり、多くの名詞に適用でき、たとえば、外来語である「Sekolah」(学校)も「Sekolah-sekolah」という複数形に変えることができます。
インド・ヨーロッパ系の言語
インド・ヨーロッパ語族では、畳語はあまり使われず、現代のヨーロッパ言語ではほぼ俗語的な表現に限られています。
例えば、英語などのオノマトペには母音を変えた「アプラウト的畳語」(Zigzag、Flip-flop、Cling-clangなど)が多く見られます。
これに加えて、古代のラテン語、古代ギリシャ語、ゴート語などでは、動詞の完了相を表現するために動詞語根の最初の子音に母音eを加えた音節を語頭に添えることがありました。
この現象は特に古典語の文法用語では「畳音(じょうおん)」と呼ばれています。ギリシャ語の動詞の完了相では畳音が規則的に現れ、またごく一部の動詞では現在形にも現れることがあります。
ラテン語
現在形 tango「私は触れる」、完了形 tetigi「私は触れた」
ギリシア語
現在形 κλείω (kleiō)「私は閉める」、完了形 κέκλεικα (kekleika)「私は閉めた」
エスペラント語
エスペラントは国際補助語の一つで、ヨーロッパの言語と密接な関係がありますが、畳語が忌避される傾向はありません。
副詞 fojfoje「時々」(foje いつか、一度、かつて)
副詞 finfine「とうとう、やっと」(fine 終わりに、最後に、ついに)
トルコ語
トルコ語の畳語は、日本語の畳語と同様に、副詞的な働きや名詞の複数を表す働きがあります。
ただし、名詞の複数を表す際には、全く同じ形を重複させる例は少なく、通常は二番目の動詞の語頭をmに変換または追加して表現されます。
副詞的時間性を表す:sık sık (ちょくちょく)、ayrı ayrı (別々に)、ara ara(時折)
副詞的擬態を表す:pırıl pırıl(きらきら)、 fısıl fısıl(ひそひそ)
名詞の複数を表す:çesit çesit(種々の)、 <口語>kim kim(人々の)
※動詞をやや変形させて複数を表す:ekmek mekmek(パンやらなんやら)、gazete mazate(新聞や雑誌やら)
まとめ
畳語の意味と由来
畳語(じょうご)は、同じ形を繰り返して新しい言葉を作り出す言葉の形態です。
畳語は感情の強調や表現の活力を与えるために使われ、多くの場合、複数や継続を示す目的で利用されます。この形態は言葉遊びや伝統的な口承文化において広く見られます。
各国の畳語の例
日本語の例: 山々(やまやま)、人々(ひとびと)、読み読みする(よみよみする)
特徴: 言葉の形成や感情の表現に広く利用され、文学や口承文化にも見られる。
中国語の例: 嘩嘩(huāhuā)、哐哐(kuāngkuāng)
特徴: 擬音語や擬態語に畳語がよく見られ、音の反復が表現力を豊かにします。
韓国語の例: 무지개무지개(mujigaemujigae、虹)、둘둘(dul dul、ふたつふたつ)
特徴: 擬音語や数量を表す言葉に畳語が使用され、口語表現においてもよく見られます。
英語の例: Chit-chat、zigzag、ping-pong
特徴: 擬音語や擬態語が畳語として使われ、日常会話や表現の幅を広げています。
フランス語の例: Bonbon(ボンボン、キャンディ)、tutu(チュチュ)
特徴: 音の反復やリズムが畳語の一部となり、言語遊びや詩にも見られます。
トルコ語の例: gürültügürültü(ぎゅるるぎゅるる、騒音)、pat pat(ぱっぱっ、はち切れる音)
特徴: 擬音語や擬態語が畳語として頻繁に使用され、口語表現において活発に利用されます。
各国の畳語は、その言語と文化の特性に合わせて様々な形で表現されており、言語の豊かさや表現力を示しています。