雨や雪、日差しを遮るための道具として、傘と笠は同様のものである。
傘は頭上に持ち上げて使用するもので、別名「さしがさ」とも呼ばれる。
一方、笠は頭に被るもので、「かぶりがさ」とも称される。
キノコの「かさ」は、その形状が頭を覆う笠に似ているため、本来は「笠」と表記するのが正しい。
しかし、現代では「傘」という表現が一般的であり、どちらが正しいかという区別が曖昧になっている。
キノコの茎を傘の柄に例えることで、「傘」という表現が用いられる理由もあるが、これではキノコ全体が傘になり、指す部分とは異なる。
例えばランプシェードは本来「電球の笠」であるが、柄にあたる部分がなくても「電球の傘」と表記される。
このような事実を考慮すると、一般的には「かさ」と呼ばれるものは頭上に持ち上げる「傘」であり、広く覆うものを指す際には「傘」という表現が用いられると解釈するのが適切であるだろう。
- 1 傘の由来と歴史
- 2 雨傘と日傘の違いを紹介
- 3 笠の由来と歴史
- 3.1 笠の種類
- 3.1.1 編笠/編み笠(あみがさ)
- 3.1.2 綾藺笠(あやいがさ)
- 3.1.3 網代笠(あじろがさ)
- 3.1.4 藺笠(いがさ)
- 3.1.5 菅笠(すげがさ)
- 3.1.6 檜笠/桧笠(ひがさ)
- 3.1.7 竹笠(たけがさ)
- 3.1.8 筍笠/たけのこ笠(たけのこがさ)
- 3.1.9 葛笠/葛籠笠(つづらがさ)
- 3.1.10 藤笠(ふじがさ)
- 3.1.11 被り笠/かぶり笠(かぶりがさ)
- 3.1.12 女笠(おんながさ)
- 3.1.13 花笠(はながさ)
- 3.1.14 市女笠(いちめがさ)
- 3.1.15 鳥追笠(とりおいがさ)
- 3.1.16 唐人笠(とうじんがさ)
- 3.1.17 陣笠(じんがさ)
- 3.1.18 端反笠(はそりがさ)
- 3.1.19 車笠(くるまがさ)
- 3.1.20 騎射笠(きしゃがさ)
- 3.1.21 一文字笠(いちもんじがさ)
- 3.1.22 韮山笠/韭山笠(にらやまがさ)
- 3.1.23 托鉢笠(たくはつがさ)
- 3.1.24 遍路笠(へんろがさ)
- 3.1.25 富士笠(ふじがさ)
- 3.1.26 虚無僧笠(こむそうがさ)
- 3.1.27 湖笠(みずうみがさ)
- 3.1.28 火焔笠(かえんがさ)
- 3.1.29 隼人笠(はやとがさ)
- 3.1.30 流行笠(りゅうこうがさ)
- 3.1.31 民族笠(みんぞくがさ)
- 3.1 笠の種類
- 4 まとめ
傘の由来と歴史
傘は雨や雪、日差しなどから体を守るために頭上に広げて差し出すものです。
このような用具は一般的に「さしがさ」とも呼ばれ、竹や金属などの骨組みに紙や布、ビニールなどが張られ、柄が付けられています。
傘とは、直接上から降ってくるものから身を守るためのものであり、「笠」とは区別されます。
また、特殊な傘として、広げて使用するパラソルやマーケットパラソルもあります。
これらは携行するためではなく、地面に立てたり吊ったりして使用されます。
現代において、傘は雨や雪から体や持ち物を守るために使われるだけでなく、強い日差しを避けるためにも頻繁に使用されます。
古くから中国では天蓋式の傘が発達し、日本には百済を通じて伝わりました。
最初は日差しを避けるための「日傘」として使われましたが、日本独自の進化を経て、降水時に使用されることが一般的になりました。
開国後、欧米の文化が導入され、横浜では鉄製の傘が使われるようになりました。
この鉄製の傘が後のこうもり傘となり、雨天でも使用できるようになりました。
明治時代中期以降、こうもり傘(特に女性用)は装飾が施され、美しさが重視されるようになりました。
また、深い部分が美人傘と呼ばれ、高級な織物が使われました。一方、明治後期からはパラソルが洋風の日傘として登場し、大正時代には一般的になりました。
ヨーロッパでは、古代ローマで誕生した傘が中世にカトリック教会を通じて普及しました。
それは天蓋として君主や聖職者によって使用され、単なる傘以上の意味がありました。
しかし、傘は一般的には弱いものと見なされ、長年避けられてきました。
フランスでは、1533年にイタリアのメディチ家から嫁いだアンリ2世の妃カトリーヌ・ド・メディシスによってパラソルが導入されました。
17世紀に入ると、傘は上層階級の間では一般的になり、18世紀には雨傘もおしゃれの一部となりました。
イギリスでは、18世紀中頃に一人用のこうもり形の洋傘が発明され、1787年に販売され、19世紀初頭に一般的になりました。
また、1847年にはイギリスのサムエル・フォックス社が金属骨の傘を発明し、傘は急速に普及しました。
雨傘と日傘の違いを紹介
一般的に、雨傘と日傘は使用目的によって区別されます。
雨傘
現代の雨傘は、金属製の軸や骨組みに防水加工された布が張られています。
近年では、カーボン製の軽量な骨組みを採用したものも増えています。
高級な手作り品では、天然の樫木が軸に使用されることもあります。雨傘の手入れ方法は比較的簡単で、泥がついた場合には水で洗う程度で構いません。
ただし、防水素材であるため、洗剤などでの洗濯は必要ありません。
ただし、濡れたまま放置すると骨組みが錆びる可能性があるため、帰宅後は開いて干してから閉じることが推奨されます。
建物内に濡れた雨傘を持ち込まないようにするために、出入り口には傘立てが設置されることがあります。
一部の傘には、誤って持ち帰られないように松竹錠などが付いているものもあります。
また、建物内に持ち込む際には、使い捨ての傘袋が使用されることもあります。
日傘
日傘は、雨ではなく強い日差しを避けるためのものであり、一般的には手に持って使用します。
大型のものは地面に突き刺して使用することもありますが、通常の日傘は手持ち用の小型です。
日傘は紫外線の遮断や反射機能が重視され、防水機能よりも優先されます。
また、装飾性を重視した製品も多くあります。一般的には小さめのサイズですが、最近では大型のドーム型パラソルも登場しています。
屋外で使用するガーデンパラソルやマーケットアンブレラもあります。
日傘は、紫外線を遮るために使用されるため、日本では一般的なアイテムです。
男性も熱中症予防やクールビズの一環として、日傘を利用するケースが増えています。
沖縄県では「沖縄日傘愛好会」が活動し、男性用日傘の普及に取り組んでいます。
また、環境省も男性用日傘の活用を推奨しており、一部の学校では熱中症予防のために日傘の使用を奨励しています。
ビーチパラソル
太陽からの熱線を遮るために、日傘には厚地や二重張りの綿、麻、絹、ポリエステルなどが使用され、近年ではこれらの生地にアルミコーティングなどが施され、熱や紫外線の遮蔽率が向上しています。
また、手に持った時の負担を軽減するため、カーボン素材などの軽量化された骨組みが使用されることもあります。
通気性を確保するために、レースなど穴の空いた生地が使用されることもありますが、これにより陽射しが透過しやすくなります。
そのため、紫外線を遮るための加工が施された生地を重ねたり、見た目にも配慮した商品が好まれます。
黒色系統は紫外線を通しにくく、白色系統やパステルカラーは熱が籠もりにくく軽やかな見た目が特徴です。
晴雨兼用傘
日傘の普及に伴い、雨天でも使用できる日傘が商品化されています。
通常の日傘よりも布の目が細かく、透水性のない仕様になっていますが、これはあくまで「雨でも使える日傘」ではなく、「日傘としても使える雨傘」です。
このような商品は、デザインや大きさなどが通常の日傘に類似しています。
「晴雨兼用」という表現は、雨と晴れの両方に使えるという誤解を招きやすいため、日本洋傘振興協議会は2007年頃から「晴雨兼用傘」という用語を業界標準として推奨しています。
近年では、雨傘をベースにして日傘のUVカット機能を持たせた「雨晴兼用」の商品も登場しています。両者のニュアンスは異なりますが、表現が似通っています。
笠の由来と歴史
笠(かさ)は、頭に被る被り物の一種であり、雨や雪、強い日差しを防ぐために用いられる。
東アジアや東南アジアで古くから広く使われており、傘(かさ)、差し傘(さしがさ)、手傘(てがさ)などと区別するために被り笠(かぶりがさ)と呼ばれることもある。
笠の助数詞には、「蓋(かい)」「頭(かしら)」「枚(まい)」などがあり、転義としては以下のようなものがある。
1:笠の形状を模した物を指す。
2:紋所の名であり、家紋の一つでもある。笠紋とも呼ばれる。
3:日本語の姓氏の一つ。
笠の材質は檜板や竹、藺草、菅などであり、塗り笠や陣笠などの種類もある。
塗り笠は檜や杉の板材に和紙を貼って漆を塗り、江戸時代初期には若い女性によく使用された。一方、陣笠は竹で網代を組み、和紙を貼り、柿渋を塗って作成され、戦国時代から足軽や雑兵によく用いられた。
陣笠は戦闘時の防具や代用兜としても使用され、鍛鉄製の陣笠は切り抜き加工や漆塗りの工程が比較的簡単で手間や費用がかからないため、広く普及した。
また、野営時には鍛鉄製の陣笠を鍋代わりに使い、食事の準備をすることもあった。
笠は防具だけでなく、料理や食事の際にも活用され、野外での生活において重要な役割を果たしてきた。
笠の種類
江戸時代後期の合巻作者・柳亭種彦は、随筆『柳亭筆記』の中で豊富な引用文献を付しながら様々な笠を解説しています。
編笠/編み笠(あみがさ)
藺草、稲藁、真菰、木の皮、竹の皮などの茎から材料を取り、編んで作る笠です。形態は、材質と用途に基づいて円錐形、円錐台形、帽子形、円筒形、漏斗形、二つ折形などに分類されます。季語としては夏のものです。
綾藺笠(あやいがさ)
藺草を綾織りに編み、裏に絹布を張って作られた笠です。中央に大きな巾子がついています。武士や田楽法師などが使用しました。
網代笠(あじろがさ)
網代編の組笠で、竹ひごを主材としたものが主流です。防水性と通気性が良く、托鉢僧や遍路者がよく利用しました。
藺笠(いがさ)
藺の茎で編んだ笠で、日除け用として使用されます。
菅笠(すげがさ)
菅の葉を編んで作った笠で、万葉集にもその名が見られます。富山県高岡市で生産され、伝統的工芸品として指定されています。
檜笠/桧笠(ひがさ)
檜や杉、松、櫟などで作られた経木を材に取った笠で、修験者が使用しました。
竹笠(たけがさ)
竹や竹ひごで作った笠で、古今著聞集にも記述があります。
筍笠/たけのこ笠(たけのこがさ)
筍の皮を編んで作った笠で、京大本『湯山聯句鈔』にその名が見られます。
葛笠/葛籠笠(つづらがさ)
葛藤で作られた笠で、水口笠として知られます。女性や風流好みの男性にも広く用いられました。
藤笠(ふじがさ)
藤の蔓を編んで作られた笠で、若年の武士や医師、僧侶などが使用しました。
被り笠/かぶり笠(かぶりがさ)
頭にかぶる笠で、手で持って差す傘とは対義語です。
女笠(おんながさ)
女性用の笠を総称し、花笠や市女笠などが含まれます。
花笠(はながさ)
造花を笠に飾った美しい笠で、祭りや舞踊などで使用されます。
市女笠(いちめがさ)
市女が被る晴雨兼用の独特な形の笠で、平安時代から使用されました。
鳥追笠(とりおいがさ)
鳥を追い払う行事で被られる笠で、鳥追女の風俗に取り入れられて定着しました。
唐人笠(とうじんがさ)
南蛮人が被る帽子で、祭りなどで使用されました。
陣笠(じんがさ)
戦陣で使用される笠で、足軽や雑兵が主に利用しました。
端反笠(はそりがさ)
端が反り返った形の陣笠で、定紋が付けられています。
車笠(くるまがさ)
戦国期に考案された鉄笠で、鉄砲玉を受け流す構造を持っています。
騎射笠(きしゃがさ)
騎射や乗馬用に使用された笠で、竹で編まれています。
一文字笠(いちもんじがさ)
門付の女芸人や武士が使用した笠で、円形に編まれています。
韮山笠/韭山笠(にらやまがさ)
伊豆韮山代官所の代官が考案した笠で、幕末に使用されました。
托鉢笠(たくはつがさ)
托鉢僧がよく被る笠で、網代笠が主に利用されます。
遍路笠(へんろがさ)
遍路者がよく使用する笠で、様々な種類があります。
富士笠(ふじがさ)
富士山登山者や農作業に使用される笠で、頂部は富士山を模しています。
虚無僧笠(こむそうがさ)
虚無僧が被る笠で、深編笠が特徴です。
湖笠(みずうみがさ)
竹皮笠の一種で、湖岸や海岸で漁業や水辺の作業をする際に使用される笠。通気性が良く、頭部を守るだけでなく日光や風からも保護してくれる。
火焔笠(かえんがさ)
火事の際に被る笠。頭を熱や火花から守るための笠であり、耐熱性の高い素材で作られる。
隼人笠(はやとがさ)
隼人が被る笠。日本の古代において、隼人(はやと)と呼ばれる人々が使用したことからその名がついた。
流行笠(りゅうこうがさ)
一定の時期に特定の社会的な流行や風潮に乗って広まった笠。特定のデザインやスタイルが一般的に愛用されるようになることがある。
民族笠(みんぞくがさ)
特定の民族が伝統的に被っている笠。文化や環境に根ざした独特の形状や装飾が特徴的である。
これらの笠は、それぞれ異なる目的や背景に基づいて作られ、日本の歴史や文化の一端を物語っています。
まとめ
傘(かさ)と笠(かさ)は、両方とも日本の伝統的な雨具であり、異なる形状や機能を持っています。
傘(かさ)は、雨や日差しを遮るために頭上に持つ、折りたたみ式や固定式の雨具です。
普通は円形や八角形の布が軸に取り付けられており、雨の降る日や強い日差しを遮るために使用されます。
傘の種類には、普通の傘や折り畳み傘、日傘、雨傘などがあります。日本では、傘は雨具としてだけでなく、日除けやファッションアイテムとしても広く使用されています。
一方、笠(かさ)は、頭に被って雨や日差しを避けるための伝統的な被り物です。
笠は主に農作業や山歩きなどの屋外活動時に使用されます。笠の種類には、編笠、綾藺笠、網代笠、菅笠、檜笠などがあり、材料や形状が異なります。
また、季節や用途によって異なる種類の笠が使用されます。笠は日本の伝統文化や風習に根ざしており、特に夏の季節に多く見られます。
傘と笠はともに雨具ですが、傘は手持ちの雨具であり、笠は頭に被る雨具としての役割があります。
どちらも日本の文化や風習に深く根ざしており、日常生活や伝統的な行事で広く使用されています。