捲土重来、それは難解な故事成語です。読み方も意味も知る人は少ないでしょう。では、この言葉の意味を詳しく解説しましょう。
捲土重来とは、「けんどちょうらい」もしくは「けんどじゅうらい」と読みます。辞書によると、その意味は以下の通りです。
一度失敗した者が、非常な勢いで再び成功すること。(<小学館 デジタル大辞泉>より)
要するに、「失敗から立ち直り、勢いを取り戻すこと」を表す言葉です。
「捲土重来」は、「捲土(土煙を巻き上げる勢い)」と「重来(再び現れること)」という言葉が組み合わさった四字熟語であり、失敗から立ち直り、再挑戦する姿勢を象徴しています。
この言葉はビジネスや政治の世界でも使われ、失敗や挫折を経験した後に「捲土重来を目指す」という意志を表明する場面で頻繁に見られます。
捲土重来の由来
捲土重来は、中国の詩人・杜牧(とぼく)が詠んだ詩「烏江亭に題す」に由来する故事成語です。
時は秦末期。始皇帝の死後、楚の将軍家の出身である項羽(こうう)と、庶民出身の劉邦(りゅうほう)が天下を争いました。
最終的に勝利を収めたのは劉邦であり、戦いに敗れた項羽は自決しました。
その項羽をしのんで詠まれたのが、「巻土重來 未だ知る可(べ)からず」という一節です。
これは、「土煙を巻き上げるような勢いで、もう一度挑戦していたら、結果は分からなかったであろう」という意味です。この詩からは、杜牧の項羽に対する後悔や惜しみが伝わってきます。
杜牧とは?どういった人物なのか?
杜牧(杜甫、Du Fu、712年 – 770年)は、中国唐代を代表する詩人の一人です。
彼の詩はその深い感情表現と社会的な洞察力で知られています。
杜牧は非常に不遇の生涯を送りながらも、政治的な混乱や社会の不安定さを背景に、人間の苦悩や生の本質について深く掘り下げた詩を数多く残しました。
彼の詩作は、時代の政治情勢や自らの経験に基づくリアリティを反映しており、特にその詩風は率直で感情豊かなものでした。
杜牧の作品は後世に大きな影響を与え、中国詩壇においても重要な位置を占めています。
杜牧の詩「烏江亭に題す」について紹介
杜牧の詩「烏江亭に題す」(うこうていにだいす)は、彼の代表作の一つであり、特に有名な作品です。
この詩は、項羽と劉邦の戦いに関連しています。以下に詩の内容と背景を簡単に説明します。
杜牧はこの詩で、秦末の乱世における項羽と劉邦の対立を題材にし、敗れ去った項羽の運命に対する感慨を表現しています。
詩の中で杜牧は、「巻土重來 未だ知る可からず」という一節を用いています。これは、「土煙を巻き上げるような勢いで、もう一度挑戦していたら、結果は分からなかったであろう」という意味で、項羽がもし再び挑戦していたら、どうなっていただろうかという後悔や惜しみを表しています。
杜牧はこの詩を通じて、英雄の運命と歴史の流れの中での人間の脆さと悲哀を描写し、後世に多大な影響を与えました。
捲土重来はビジネスシーンでよく活用される表現
「捲土重来」はビジネスの場面で頻繁に使用されるフレーズですが、注意すべきポイントがあります。
この言葉は基本的にポジティブな意味で用いられることが多いです。
例えば、「捲土重来を目指して努力する」や「新たな取り組みで捲土重来を期待する」といった、前向きな姿勢や意志を表現する際に使われます。
逆に、「捲土重来を諦める」といったネガティブな文脈ではあまり適切ではありません。
この言葉がポジティブなニュアンスを持つことを覚えておくと良いでしょう。
ビジネスシーンでの捲土重来の例文を紹介
捲土重来の故事成語を使ったビジネスシーンでの例文をいくつか挙げ、解説を加えます。
例文1:「昨年度は売上が低迷しましたが、今年は新しい戦略で捲土重来を期しています。」
解説: 昨年の売上が悪かったことを認めつつ、今年は新しい戦略を用いて勢いを取り戻す意志を示しています。「捲土重来」を用いることで、失敗から学び、再挑戦する決意を強調しています。
例文2:「今回のプロジェクトは失敗しましたが、次回は捲土重来を果たすために、チーム全員で再度計画を練り直します。」
解説: 現在のプロジェクトが失敗したことを認めた上で、次回は同じ失敗を繰り返さないよう、全員で計画を見直す決意を示しています。「捲土重来」を使うことで、失敗からの再起を目指す姿勢を明確にしています。
例文3:「市場シェアを失いましたが、新製品の発売で捲土重来を図りたいと考えています。」
解説: 市場シェアの減少という失敗を認めつつ、新製品の投入により市場での再起を目指す計画を示しています。「捲土重来」を用いることで、挫折を乗り越え、新たな挑戦をする意欲を伝えています。
例文4:「今度の株主総会では、昨年の失敗を踏まえて、捲土重来を果たすための新方針を発表します。」
解説: 株主総会で昨年の失敗を認識し、その教訓を基に新しい方針を打ち出して再起を図る意志を示しています。「捲土重来」を使うことで、失敗から学び、再度挑戦する姿勢を強調しています。
例文5:「営業部は昨年の目標を達成できませんでしたが、今年は捲土重来を目指し、新たな営業戦略を実行します。」
解説: 昨年の営業目標を達成できなかったことを認めつつ、今年は新しい戦略を用いて目標達成を目指す意志を示しています。「捲土重来」を用いることで、失敗から立ち直り、再挑戦する決意を強調しています。
これらの例文は、「捲土重来」を使ってビジネスシーンで失敗からの再起を図る意志や姿勢を表現しています。このフレーズを用いることで、困難に直面しても諦めずに再挑戦する決意を強調できます。
捲土重来の類義語を紹介
「捲土重来」と同様に、失敗や挫折から立ち直り再び挑戦することを表す言葉にはいくつかの類義語があります。以下にそれらを解説付きで紹介します。
再起(さいき)
意味: 一度失敗や挫折を経験した後、再び立ち上がり、活動を再開すること。
解説: 「再起」は、ビジネスやスポーツなどで一度失敗した後にもう一度成功を目指すという文脈でよく使われます。
立ち直る(たちなおる)
意味: 困難や失敗から回復し、再び元の状態に戻ること。
解説: 個人や組織が困難な状況を乗り越えて元気を取り戻す際に用いられます。
復活(ふっかつ)
意味: 一度失われたものが再び現れること、あるいは再び活動を開始すること。
解説: 「復活」は、ビジネスシーンだけでなく、スポーツや芸術の分野でも使われ、特に以前の状態や成功を再び取り戻す意味合いがあります。
再挑戦(さいちょうせん)
意味: 一度失敗したことに対して再び挑戦すること。
解説: 初めての挑戦がうまくいかなかった場合に、再度挑戦する意欲や決意を表す言葉です。
リベンジ
意味: 過去の失敗や敗北に対する報復や再挑戦。
解説: 英語由来の言葉であり、ビジネスやスポーツの分野で、以前の失敗を克服して成功を目指す際に使われます。
再起動(さいきどう)
意味: 一度停止した活動やプロジェクトを再び開始すること。
解説: 主にビジネスや技術の分野で使用され、一時的な中断や失敗を経て再び活動を始めることを意味します。
巻き返し(まきかえし)
意味: 劣勢や失敗から再び勢いを取り戻し、優位に立つこと。
解説: 特にビジネスやスポーツで使われ、失敗や不利な状況を挽回して再び競争に勝つことを示します。
回復(かいふく)
意味: 一度失った健康や状態が再び良くなること。
解説: 健康や経済状況が悪化した後に再び良くなることを示し、個人や組織の立ち直りに使われます。
これらの言葉は、いずれも「捲土重来」と同様に、困難な状況や失敗からの再起を表すものであり、さまざまなビジネスシーンや日常の場面で使用されます。それぞれのニュアンスに応じて適切な言葉を選ぶと良いでしょう。
捲土重来の対義語を紹介
捲土重来の対義語として、再び立ち直ることや挑戦することを放棄する、あるいは失敗したままで終わることを表す言葉をいくつか紹介し、解説します。
諦める(あきらめる)
意味: 成功や達成を断念し、追求をやめること。
解説: 目標や夢に対して努力を続けることを放棄する場合に使われます。
失敗(しっぱい)
意味: 目的や計画がうまくいかずに終わること。
解説: 努力の結果が望む成果を得られず終わることを意味し、その後の再挑戦がない場合に特に使われます。
敗北(はいぼく)
意味: 競争や戦いに負けること。
解説: 勝負や競争において相手に負け、再挑戦する意思や行動が伴わない状況を指します。
投げ出す(なげだす)
意味: 途中でやめること、放棄すること。
解説: 取り組んでいる物事を中途半端に放棄する状況を指し、継続的な努力や再挑戦の意欲が欠けている場合に使われます。
断念(だんねん)
意味: 目標や計画を達成することを諦めること。
解説: 目標や計画に対する努力を断ち切り、達成を諦める状況を表します。
撤退(てったい)
意味: ある活動やプロジェクトから身を引くこと。
解説: ビジネスや軍事作戦などで、失敗や不利な状況に直面して活動を中止し、再び挑戦しない場合に使われます。
挫折(ざせつ)
意味: 目的に向かって進んでいる途中で、計画が途中でダメになること。
解説: 努力や試みが途中で失敗し、その後も再び挑戦する意思が見られない場合に使われます。
敗退(はいたい)
意味: 試合や競争で負けること。
解説: 勝負や競技において敗北し、その後再び挑戦することなく終わる場合に使われます。
停滞(ていたい)
意味: 物事が進まず、動きが止まってしまうこと。
解説: 進展がなく、再挑戦や改善の動きが見られない状態を指します。
これらの言葉は、「捲土重来」が持つポジティブな再挑戦の意志や立ち直りの姿勢とは対照的に、失敗や挫折のまま終わること、あるいは再挑戦を放棄することを表します。状況に応じて適切な対義語を選ぶと良いでしょう。
まとめ
捲土重来は、中国の故事成語であり、失敗や挫折を経て再び力を取り戻し、成功を目指す意志や姿勢を表現する言葉です。
意味と由来
意味: 一度失敗したり挫折した後に、再び力を取り戻し成功を目指すこと。
由来: この成語は、中国の歴史的な人物や出来事に基づいており、特に楚漢戦争の際に劉邦が項羽に対して勝利したことを経て生まれた言葉です。
使用例と文脈
ビジネス: 失敗したプロジェクトや企業が新たな戦略やアプローチを用いて再び成功を目指す際に使用される。
個人的な成長: 個人が過ちや挫折を経て、自己改革や努力を重ねて成長する姿勢を示す際にも使われる。
特徴とニュアンス
ポジティブな意味合い: 主に前向きな姿勢や再挑戦の意思を表す言葉であり、失敗を学び、成長する意志を強調する。
文化的背景: 古代中国の歴史や文学に根差した成語であり、その背景を理解することで深い意味を持つ。
類義語と対義語
類義語: 再起、立ち直り、復活など、失敗からの再挑戦を表す類似の言葉がある。
対義語: 諦める、失敗、敗北など、再挑戦を放棄することや挫折を意味する言葉が対義語として挙げられる。
現代の利用と影響
現代のビジネスシーンや個人の成長の文脈で広く利用されており、失敗を経て再度成功を目指す精神を鼓舞する役割を果たしている。
文学や文化の中でしばしば引用され、その深い意味と背景から多くの人々に愛されている成語である。
「捲土重来」は、中国の歴史や文化的背景を反映しながらも、その持つ前向きな意味合いから世界中で広く理解され、利用されています。
失敗や困難に直面した時に、再び立ち上がり、新たな挑戦を続ける勇気と希望を与える言葉として、今日でも多くの人々に支持されています。