水の硬度は、1リットル当たりのカルシウムやマグネシウムの含有量に基づいて決まり、「軟水」と「硬水」に分類されます。国によって基準は異なりますが、日本では硬度が100mg/l未満を「軟水」、100~300mg/l未満を「中硬水」、300mg/l以上を「硬水」と定義しています。一方、世界保健機関(WHO)の基準では、硬度が120mg/l未満を「軟水」とし、それ以上を「硬水」としています。
水の硬度は、地球の地殻物質や地形によって大きく左右されます。日本のように国土が狭く、雨水が速やかに流れ込む地域では、地層中のミネラルがあまり含まれず「軟水」が多く見られます。一方、北米や欧州など広大な国土で雨水が滞留する地域では、「硬水」が一般的です。
水の硬度は食文化にも密接に関連しており、西欧では肉料理が主流でミネラルが不足しがちなため、硬水が好まれます。
また、硬水は料理の際に灰汁を取りやすいため、シチューなどの煮込み料理に適しています。一方、日本料理では軟水が使用され、その溶解性と風味を生かして出汁を取り、お茶を淹れ、米を炊くのに適しています。
硬水は新陳代謝を促進し、脂肪の吸収を抑制し、便秘解消に効果があるとされていますが、日本人が摂取する際には過剰摂取による消化器系への負担が考慮されます。一方、軟水は胃腸に優しく、栄養の吸収率を高め、老廃物の排出を促進し、肌の保湿効果も期待できます。
健康や美容を意識するならば、軟水の利用が推奨されます。
硬水とは?
硬水は北欧の水域で一般的に見られます。アメリカ合衆国では、東部、南部、太平洋岸では主に軟水が供給されており、南西部では硬水が主流です。
日本でも関東地方の一部や南西諸島で硬水が観察されますが、大部分の地域では軟水が使用されており、硬水の地域(例えば沖縄本島中南部、本部半島、読谷)では水道水の硬度を調整する処理が行われています。
硬水には一時硬水と永久硬水の二種類があります。
前者は石灰岩地帯を流れる河川や地下水で見られ、煮沸することで軟化できる炭酸水素カルシウムを多く含んでいます。
後者は硫酸塩や塩化物の形でカルシウムやマグネシウムが含まれており、煮沸しても軟化しません。かつては飲用に適さないとされていましたが、現在ではイオン交換樹脂によってイオンを取り除き、軟化することが可能です。
ミネラルの含有量が多いほど、硬水は口当たりが重く、独特の味わいがあります。
そのため、一部の硬水は飲料水としては好まれません。特に、マグネシウムイオンは体内で吸収されにくく、長時間腸内に留まることがあり、下痢を引き起こす可能性があります。
硬水には健康飲料として販売されるものもありますが、一方で石鹸と組み合わせると不溶性の塩(石鹸カス)を生じ、使用感が悪化することがあります。
また、衣類にも影響を与え、色あせや異臭の原因となることがあります。工業用途では、加熱によってライムスケイルが発生し、パイプの詰まりや熱効率の低下を引き起こすことがあります。
硬水と料理
料理においては、一般的には軟水が好まれますが、肉料理や洋風のだしを作る際には硬水が有利な場合もあります。
肉の煮込み料理では、灰汁として余分なタンパク質を抜き出し、肉を柔らかくする効果があるため、硬水が適しています。
また、硬水を使うことでスパゲッティは塩を加えずにアルデンテに仕上がり、ジャガイモの煮崩れを抑えたり、豆や米を堅く炊き上げたりすることができます。
穀類やコーヒーでは軟水が適しており、浅煎りのアメリカンコーヒーは豆本来の香りとさっぱりした味が楽しめ、深煎りのエスプレッソでは硬水が苦みや渋みを和らげ、まろやかなコクを加える効果があります。
緑茶に関しては、以前は軟水が旨いとされてきましたが、最近の研究では硬水で淹れると旨みが強いという結果もあります。
一方、和食では硬水がうま味成分の抽出を阻害するため、昆布や鰹節の調理には軟水の使用が推奨されています。
軟水とは?
腐葉土や泥炭層を通って流れる水は一般的に軟水です。
日本の水は他国に比べて硬度が低く、ほとんどの地域で硬度が80未満の軟水が供給されています。ただし、南西諸島や関東地方の一部、福岡県の一部などは例外です。河川の流域面積が少ないため、ミネラルの溶解量が少なく、硬度が低い特徴があります。
軟水は金属石鹸(石けんカス)が少なく、硬度が60の水と硬度が1の水では石鹸を溶かす能力に大きな差があります。泡立ちがよく、洗浄時に滑りが良いのも軟水の特徴です。
一般的に、和食やコーヒー、喫茶などの用途には軟水が適しています。和食では昆布のグルタミン酸や鰹節のイノシン酸の抽出に影響を与えないためです。
また、コーヒーでは浅煎りのアメリカンコーヒーには軟水を用いることで豆の風味を最大限に引き出し、深煎りのエスプレッソには硬水を用いることでまろやかさが増し、苦味や渋みが軽減されます。
酒造では、水中のミネラルが麹菌の活性化に寄与し、発酵を促進するため、辛口の酒が得意な硬水が適しています。一方で軟水を使用すると、酒が甘口に仕上がる傾向があります。
染色では、金属イオンが少ない軟水を使用することで、均一な染色が可能とされています。
まとめ
硬水と軟水は、主に水中のミネラル濃度に基づいて区分される水の種類です。
硬水(Hard Water)
特徴
ミネラル濃度が高い: 主にカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)などのイオンが多く含まれています。
石鹸の泡立ちが悪い: カルシウムやマグネシウムが石鹸と反応し、石鹸の洗浄能力を減少させます。これにより、肌や髪の洗浄時に滑りが悪くなることがあります。
用途
料理: スパゲッティやジャガイモの調理時には硬水が適しています。特に肉料理では灰汁(余分なタンパク質など)を取り除き、肉を柔らかくする効果があります。
飲料: 深煎りのコーヒーや一部の紅茶には硬水が好まれ、豊かな風味やまろやかさを引き出します。
産業: 工業用途では、加熱時にライムスケイル(石灰の堆積物)が発生しやすく、メンテナンスや清掃が必要です。
軟水(Soft Water)
特徴
ミネラル濃度が低い: カルシウムやマグネシウムの濃度が少ないため、石鹸との反応が少なく泡立ちが良いです。
洗浄時に滑りが良い: 肌や髪の洗浄時にぬめりを感じにくいです。
用途
和食: 昆布や鰹節などの調理に適しており、うま味成分の抽出に影響を与えません。
コーヒー: 浅煎りのコーヒーなど、豆の風味を引き立てるのに適しています。
家庭用途: 石鹸や洗剤の効果を最大限に引き出し、肌や衣類のケアに適しています。
比較と注意点
料理: 肉料理やパスタ調理においては硬水が好まれる場面がありますが、一方で和食や繊細なコーヒーには軟水が適しています。
健康への影響: 硬水にはカルシウムやマグネシウムが豊富に含まれているため、それらのミネラルを補給する効果がありますが、一方で摂取しすぎると健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
硬水と軟水の選択は、地域の水質に応じて行うことが推奨されます。また、使用目的や個々の好みに応じて最適な水を選ぶことが重要です。