吸血鬼とは、伝説によれば人間の生血を吸う怪物であり、英語では「Vampire(ヴァンパイア)」と呼ばれています。
「ドラキュラ(Dracula)」は、1897年にアイルランドの作家ブラム・ストーカーが発表した小説『吸血鬼ドラキュラ』に登場する男性吸血鬼の名前です。この小説の成功により、「ドラキュラ」は一般に「吸血鬼」を指す言葉として知られるようになりましたが、これは特定の登場人物の名前であり、全ての吸血鬼を指す英単語ではありません。
ちなみに、「ドラキュラ」はルーマニア語で「竜の息子」を意味し、「竜」には「悪魔」の意味もあります。
世界中には、「吸血鬼=ドラキュラ」という誤解が広がっていますが、実際にはさまざまな吸血鬼の伝承が存在します。吸血鬼は必ずしも目が赤く、牙があるわけではなく、また、夜行性である必要もなく、宗教的な象徴に弱い必要もありません。
日本にも、「紫女」と呼ばれる男性の血を吸い衰弱させる伝説や、「磯女」と呼ばれる地面につくほど長い髪を持つ美女が髪の毛から血を吸うという伝承があります。
吸血鬼の伝承とは?
吸血鬼(ヴァンパイア、古東スラヴ語: вѫпырь)は、民間伝承や伝説に登場する存在であり、生命の源とされる血を吸うことで栄養を得る、復活した死者または不死の存在です。その存在や力には物理的な証拠はないとされています。
世界中で知られる怪物として、狼男やフランケンシュタインの怪物と並びます。また、用語としては、人々から不当に利益を得る者なども指すことがあります。
ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』やシェリダン・レ・ファニュの『カーミラ』など、多くの文学作品に登場し、生と死を超えた存在、または不死の王として描かれることがあります。また、「ヴァンパイア」「バンパイヤ」「ヴァンピール」などとも表記されます。
現代の吸血鬼・ヴァンパイアのイメージは、ヨーロッパの伝承に深く根ざしています。
吸血鬼の伝承は世界各地で古くから見られ、古代ギリシアのラミアーやエンプーサ、古代バビロニアのアフカル、テッサリアの巫女、ポルトガルのブルーカ、ドイツのドルド、東ヨーロッパのヴァンパイアに加え、アラビアのグールや中国のキョンシーなどがあります。
これらの伝承では、「吸血鬼」という言葉が使用されていますが、すべてが人間の血を吸う存在とは限りません。
吸血鬼の語源と特徴
吸血鬼(ヴァンパイア)の語源については諸説ありますが、1730年代の英語の出版物に「vampyre」という言葉が見られることから、それ以前から使用されていた可能性が指摘されています。
一般的には、リトアニア語の「Wempti(飲む)」から派生したとされるほか、トルコ語の「uber(魔女)」やセルビア・クロアチア語の「Pirati(吹く)」も提案されています。
18世紀以前から世界各地には吸血鬼の伝説があり、「ヴァンパイア」という言葉が一般化する以前から様々な名称で呼ばれていました。
例えば、中国では「吸血鬼」という言葉が古くから存在し、血を吸う悪霊や亡者を指していましたが、後には欧米の「ヴァンパイア」と同じ意味で使われるようになりました。
日本では、南方熊楠が初めて「Vampire」を「吸血鬼」と訳したとされ、それ以前からも押川春浪の小説などで「吸血鬼」という言葉が用いられていたことが知られています。
また、「ノスフェラトゥ(Nosferatu)」という呼び名も19世紀末に見られますが、その由来については明確ではありません。
吸血鬼の特徴としては、ぶよぶよした血の塊のような姿や、生前のままの姿を保つことが多いとされます。
彼らは一定の期間を経ると完全な人間に戻ることもあり、さまざまな姿に変身する能力があるとされています。
夜間に活動し、虫やネズミ、霧などに変身して棺や小さな隙間から出てくるとされ、特定の日には活動できないという信念も地域によって異なります。吸血の際には長い牙が現れるとされており、近年では美しい容姿で人間を誘惑するという描写も多く見られます。
吸血鬼の民間伝承とその特徴
吸血鬼の概念は、数千年前から存在していました。メソポタミア、古代イスラエル、古代ギリシア、古代マニプル、古代ローマなど、さまざまな文化において、現代の吸血鬼につながるような悪魔や精霊が登場する物語が語られていました。
18世紀初頭以降、東南ヨーロッパで口承されていた吸血鬼の伝説が記録・出版され、広まるきっかけとなりました。
吸血鬼の正体は邪悪な存在や自殺者、魔女などの亡霊とされることが多く、吸血鬼に咬まれたり、死体に悪霊が憑りついたりすることで生まれるとも言われています。
この種の伝承は広範囲にわたって伝えられ、一部の地域では吸血鬼とされた人々が公開処刑されるという集団ヒステリーを引き起こしたこともありました。
吸血鬼の外見
ヨーロッパ各地の吸血鬼伝承には共通する特徴がいくつかありますが、一つの言葉で説明するのは難しいです。一般的に、吸血鬼は太った外見をしており、血色や紫色などの暗い色をしているとされています。
吸血鬼の発生
民間伝承では、吸血鬼の発生要因はさまざまです。スラブや中国の伝承では、特に犬や猫に飛び越えられた死体が甦ると信じられ、恐れられていました。
また、熱湯を通していない外傷を負った遺体も吸血鬼になる危険があるとされています。
ロシアでは、吸血鬼は生前に魔女だったか、ロシア正教会に反逆した者たちの結末とされていました。ドイツでは、胞衣をまとったまま生まれた者が死後にナハツェーラーとなると信じられていました。
南スラブ地域では、吸血鬼は特定の段階を経て身体を形成するとされました。特に最初の40日間は吸血鬼にとって重要であり、最初は目に見えない影として存在し、次第に生き血で活性化し、ゼリー状の肉体を形成しました。
最終的には生前とほぼ同じ身体を取り戻し、墓場を離れて人間としての生活を始めることができました。
これらの吸血鬼は通常、性的に活発であり、生前の配偶者との間に子供をもうけることもありました。
子供たちは親と同様の吸血鬼となるか、吸血鬼を追う能力を持つ吸血鬼ハンターとなるとされていました。
アルバニアの伝承では、ダンピール(dhampir)と呼ばれる混血児がククディ(英語版)やルガット(英語版)と戦う特別な能力を持っているとされています。地域によっては、動物や眠っている人間が吸血鬼に変身すると信じられています。
吸血鬼に対する予防策とその民間伝承
吸血鬼のようなアンデッド化を防ぐための慣わしは、古代から存在してきました。
例えば、遺体を逆さに埋葬する、遺体の近くに鎌などを置くなどの方法が広く行われ、これらは遺体への侵入を防ぐためや、遺体が棺から起き上がれないようにするために役立ってきました。
このような慣わしは、古代ギリシアのステュクスの川を渡れるように死者にコインを口に入れる習慣にも似ており、またこのコインは死者の体内の悪霊を追い払う目的もありました。
この習慣が後の吸血鬼伝承に影響を与えた可能性も指摘されています。現代のギリシャでも、ヴリコラカス(ヴァンパイアの一種)の伝承では、遺体に蝋の十字架と “Jesus Christ conquers” の文字が刻まれた陶器を置くことで、死後のヴリコラカス化を防ぐとされています。
ヨーロッパでは、吸血鬼とされる遺体の膝の腱を切断する、墓の周囲にケシの実やキビ、砂を置くなどの慣わしが広く行われてきました。
後者は吸血鬼の計算癖に基づくもので、墓の前に落ちた実を数えさせることで吸血鬼の活動を阻止する狙いがあります。
中国の伝承でも、吸血鬼のような存在が米袋を見るとその中の米を一粒ずつ数えたくなるという説話があります。これらの言い伝えは、インドや南米などの他の文化の民間伝承にも共通するテーマとして見られます。
吸血鬼の識別法もさまざまに存在しました。例えば、墓地や教会の周りを女性経験のない男子が同様に経験のない牡馬に乗って巡ると、問題のある墓の手前で馬がたじろぐという方法がありました。
一般的には黒い馬が用いられますが、アルバニアでは白い馬が必要とされています[24]。また、墓の地面に穴があいていることも、吸血鬼の存在を示す一つの兆候とされました。
吸血鬼とされる遺体は通常、健康的な外見をしており、腐敗がほとんど見られないか全く見られないとされています。
また、遺体の棺を開けた際に、顔に鮮血がびっしりと付いていたという話も伝わっています[27]。吸血鬼の活動には、家畜や隣人の死亡が関連していることがしばしばあり、ポルターガイスト的な要素も含まれていました。
ドラキュラとは?
『吸血鬼ドラキュラ』(原題:Dracula)は、1897年にアイルランド(イギリス)の小説家ブラム・ストーカーによって発表された怪奇小説であり、ゴシックホラーの代表作の一つです。
物語は複数の語り手による手紙、日記、新聞記事という形式で進行し、トランシルヴァニアの貴族で吸血鬼のドラキュラ伯爵がイギリスに災いをもたらし、それを討伐するグループが活躍する内容です。
ストーカーは1890年代に執筆を行い、トランシルヴァニアの民間伝承や歴史を幅広く参照しました。
ドラキュラ伯爵のモデルとしては、15世紀のワラキア公国の君主であるヴラド・ツェペシュ(ヴラド3世)や17世紀のトランシルヴァニアの貴族のバートリ・エルジェーベトなどが挙げられますが、これについては議論の余地もあります。ストーカーは休暇中にウィットビーの図書館で「ドラキュラ」という名前を見つけ、ルーマニア語で悪魔を意味すると勘違いした可能性があります。
当時、『吸血鬼ドラキュラ』は好意的に評価され、特に他の小説家ウィルキー・コリンズの『白衣の女』と比較されることが多かったですが、恐怖を煽りすぎているとして批判されることもありました。後に多くの映画で翻案され、広く知られる作品となりました。
まとめ
吸血鬼
吸血鬼は世界中のさまざまな文化において伝承されてきた存在であり、一般には生者の血を吸って生きるとされる不死の怪物として知られています。
吸血鬼の伝承には地域ごとに異なる特徴がありますが、一般的には以下のような要素が含まれます。
起源と伝承:古代から各地で吸血鬼のような存在が伝承されており、死者がアンデッドとして蘇るという恐怖が背景にあります。古代ギリシャや中世のヨーロッパ、スラブ地域などでその存在が語られています。
特徴:一般には夜間に活動し、血を吸うことで力を得るとされ、不死や超自然的な力を持つことが描かれています。外見や能力は文化によって異なりますが、吸血行為や変身能力などが共通の特徴です。
予防策と識別法:吸血鬼を防ぐための様々な方法が伝承されており、ニンニクや聖なる象徴、特定の儀式や呪文などが用いられます。また、吸血鬼を識別する方法として、特定の儀式や物理的な試練が行われることもあります。
ドラキュラについて
ドラキュラは、ブラム・ストーカーが1897年に発表した小説『吸血鬼ドラキュラ』に登場する架空の吸血鬼の伯爵です。以下にその要点を示します。
登場と背景:小説ではトランシルヴァニアの吸血鬼伯爵として登場し、イギリスのロンドンに災厄をもたらす物語が展開されます。多くの文学作品や映画で有名なキャラクターとして知られています。
特徴と行動:ドラキュラは強力な吸血鬼として描かれ、超自然的な力や変身能力を持ち、人間の血を求めて行動します。彼のキャラクターは知識豊かで魅力的な一面も持ち合わせています。
討伐と結末:物語では、エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授率いるグループがドラキュラを追い詰め、トランシルヴァニアで最終的に討伐するまでの過程が描かれます。彼の死によって、物語の登場人物たちの脅威が去ることになります。
ドラキュラはその後、多くの派生作品や映画で再解釈され、世界的な怪物としての地位を確立しました。