承ると賜るどちらを使う?シーン別の正しい言い回し

日本語には、相手との関係性や場面の格式に応じて使い分ける必要のある多様な敬語表現が存在します。

その中でも「承る(うけたまわる)」と「賜る(たまわる)」という二つの語句は、特にビジネスシーンや公的な場面において頻繁に用いられる重要な言葉です。

これらはどちらも謙譲語として位置付けられていますが、意味や使い方には微妙な違いがあり、誤って使用すると相手に不快感を与えたり、場合によっては礼を失することにもなりかねません。

「承る」は、相手からの言葉や依頼、情報などを「聞く」「引き受ける」際に使う語で、自分をへりくだりながら丁寧に受け入れる姿勢を示します。

一方で「賜る」は、目上の人から物や言葉、あるいは恩恵を「いただく」ことを意味し、こちらも自分を低くしながら相手の好意を尊重する表現です。

本記事では、「承る」と「賜る」の語義の違いや使い分けのポイントを明確にしつつ、それぞれがどのような文脈で用いられるべきかを、ビジネス文書や口頭でのやり取りなど実践的な観点から解説していきます。

また、類語との比較や敬語としての適切な用法、避けるべき誤用の具体例も紹介し、読者の皆様が安心してこれらの語を使いこなせるようになることを目指します。

「承る」と「賜る」の基本的な意味

「承る」の意味

「承る」は「聞く」「引き受ける」「伝え聞く」「受ける」など、複数の意味を持つ謙譲語であり、いずれも自分の行動をへりくだって表現する際に使用されます。

たとえば、「ご意見を承りました」では「意見を謹んで聞いた」という意味になり、「ご注文を承りました」では「注文を受けて引き受けた」というニュアンスになります。

ビジネスシーンでは、依頼内容や注文、要望などを丁寧に受け取ったということを示すのに適した表現です。

また、「承知する」という意味合いで使われることもあり、「内容を理解して引き受ける」という意志を丁寧に表す言葉でもあります。

「賜る」の意味

「賜る」は、「いただく」「受ける」の謙譲語であり、特に目上の人や公的な立場の相手から物品や言葉、恩恵などを拝受する際に使われる格式高い表現です。

「ご指導を賜り、ありがとうございます」や「ご厚情を賜りまして、深く感謝申し上げます」などのように、感謝や敬意を示す場面でよく使用されます。

また、年賀状や挨拶文などフォーマルな文書でも頻出する語であり、「ご芳情を賜り厚く御礼申し上げます」といった書き言葉としても用いられます。

口語ではやや硬い印象を持たれやすいため、使う場面には注意が必要です。

両者の違いと使い分け

「承る」と「賜る」はどちらも謙譲語に分類されますが、それぞれが対象とする行為の性質に違いがあります。

「承る」は、主に自分が行動を起こす「能動的な動作」(聞く・引き受ける)に対して用いるのに対し、「賜る」は相手からの行為を受ける「受動的な結果」(もらう・受け取る)に焦点が当たっています。

例えば、お客様からの要望を「承る」と言う場合、それは「その内容を受け取って引き受ける」という自発的な姿勢を表します。

一方で、社長からのご助言を「賜る」と言う場合、それは「ありがたく頂戴する」という受け身の態度を強調する使い方です。

また、両者には使われる場面にも差があり、「承る」は比較的日常のビジネス会話でも使われますが、「賜る」は公的な挨拶や感謝を述べる際の文章表現に適しており、使い方には注意が必要です。

ビジネスシーンでの使い方

「承る」の使い方と例文

「承る」は、依頼や申し出、意見などを丁寧に受け取る際に用いられる表現です。

相手の言葉を尊重し、責任をもって対処する意志を示すため、ビジネスのやりとりでは極めて重要な表現となります。

また、文書やメールの中でも頻繁に登場し、誤解を避ける丁寧な伝達の手段として機能します。

・ご意見を承りました。

・ご依頼の件、確かに承っております。

・ご予約を承ります。

・お電話の内容、しっかりと承りましたので、担当者に申し伝えます。

・お見積もりのご希望、確かに承りました。速やかにご案内いたします。

「賜る」の使い方と例文

「賜る」は、相手からのご厚意やご助力をへりくだって受け取る際に使います。

特に、フォーマルな挨拶や感謝の意を表す表現として適しており、定型文の中にも頻繁に登場します。

書き言葉としては非常に格式が高く、ビジネスの中でも重厚感ある文面を構築する際に有用です。

・ご高配を賜り、誠にありがとうございます。

・お力添えを賜りたく、お願い申し上げます。

・ご祝辞を賜りまして、御礼申し上げます。

・平素より格別のご愛顧を賜り、厚く御礼申し上げます。

・今後とも変わらぬご指導とご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

目上の人への正しい言い回し

目上の方とのやり取りでは、敬意を的確に表すことが信頼関係を築く第一歩となります。

「承る」は相手の話や要望を受ける自分の行為をへりくだって表現するのに対し、「賜る」は相手からの何かを受けることに対する敬意をこめた表現です。

たとえば、上司からの指示に対しては「承知いたしました」や「承りました」と返し、顧客からの感謝すべき厚意に対しては「ご厚情を賜り、深く感謝申し上げます」と述べるのが自然です。

両者の使い分けを誤ると、丁寧さを欠いたり、意味が不明確になったりするため、常に対象となる動作の方向性(能動か受動か)と敬意の対象(自分か相手か)を意識して用いることが大切です。

「承る」と「賜る」の類語

「承知」や「頂戴」の使い方

「承知しました」はビジネスシーンでもよく使われるカジュアルな敬語表現です。

「了解しました」よりも少し丁寧で、口頭でも文書でも使いやすいフラットな表現です。

相手との関係性によっては「承知いたしました」と丁寧に言い換えることで、より礼を尽くす印象を与えることができます。

「頂戴します」は、物理的に何かを受け取る際によく用いられます。

例えば、プレゼントや書類などの受け取り時に「こちら、頂戴いたします」と言えば丁寧な印象を与えます。

「賜る」がやや重々しく格式ばった場面に用いられるのに対して、「頂戴する」は日常的かつ実用的で、比較的幅広い状況で使いやすいのが特徴です。

また、「頂戴」は食事の際にもよく使われ、「いただきます」は「頂戴します」から派生した表現でもあります。

こうした点からも、日常生活に根付いた敬語としての「頂戴」の使い方を押さえておくと、言葉選びの幅が広がります。

「拝受」と「了解」の比較

「拝受しました」は、書き言葉で非常に丁寧かつ格式ある表現であり、ビジネス文書や公的な通知などで使われます。

たとえば「ご送付いただいた資料、確かに拝受いたしました」という文面では、「受け取った」という事実を最大限に丁寧に伝えることができます。

「拝受」は基本的に書き言葉に限定され、会話で使うことはまれです。

「了解しました」は、口語での使用が一般的で、特に目下の人や同僚とのやり取りでよく使われます。

ただし、目上の人に対しては失礼とされることがあるため、ビジネスの場では「承知しました」や「かしこまりました」などに置き換えるのが適切です。

「了解」は自衛隊や警察などの職業的文脈でもよく用いられ、命令や報告の受領を表す簡潔な表現としても知られています。

このように、「承知」「頂戴」「拝受」「了解」はそれぞれ使いどころや文体が異なるため、相手や状況に応じた言葉の選択が求められます。

「承る」と「賜る」の敬語表現

謙譲語としての用法

「承る」も「賜る」も、日本語における謙譲語の代表的な表現であり、自分の行動や立場をへりくだることによって、相手に対して敬意を示す言葉です。

「謙譲語」は、話し手が自分を控えめに表現することで、相対的に聞き手を高めるという敬語の基本的な構造に則っています。

「承る」は、「聞く」「受け取る」「引き受ける」といった行為を謙って述べるときに使われます。

例えば「ご意見を承ります」という表現は、「あなたの意見を丁寧にお聞きし、受け止めます」という謙虚な姿勢を表すものです。

一方、「賜る」は「いただく」「受け取る」の謙譲語として使われ、主に相手から何かを授けられたことに対する深い感謝や敬意を伝える際に使います。

「ご指導を賜りました」などのように、目上の人からの恩恵に感謝する文脈で用いられることが多いです。

両語は、フォーマルな文書やビジネスの場で頻繁に登場し、丁寧さを強調したい時に用いられる重要な語彙です。

とくに社外文書、メール、年賀状、挨拶状など、儀礼的な文章では「賜る」の使用頻度が高く、一方で日常業務のやり取りにおいては「承る」が多用される傾向があります。

尊敬語としての用法

「賜る」は本来謙譲語ですが、古語的な文脈では尊敬語として使われる場合もあります。

特に、伝統的な文章や神事、歴史的な文献などにおいては、天皇や神仏といった崇敬対象から「賜る」ことが記されており、文脈によっては尊敬語的な意味合いを帯びることがあります。

ただし、現代のビジネス日本語においては、「賜る」は基本的に謙譲語として理解され、尊敬語の役割を果たす際には「くださる」や「お与えになる」など、直接的な尊敬表現が用いられます。

たとえば「社長がお言葉をくださいました」は「社長がお言葉を賜りました」とは言いません。

このように、敬語表現を正しく使い分けるには、その語が謙譲の立場か尊敬の立場かを明確に見極めることが求められます。

まとめると、「承る」と「賜る」はともに謙譲語としての用法が中心ですが、「賜る」は特殊な文脈において尊敬語の性格を持つこともあるため、使う場面や相手、文章の種類に応じた適切な判断が必要です。

注意点と避けるべき使い方

失礼な使い方の具体例

「承る」と「賜る」は、それぞれ意味が異なるにもかかわらず、似たような文脈で一緒に使われがちなため、誤用されることが少なくありません。

特にビジネス文書やフォーマルな会話においては、言い回しの微妙な違いが大きな印象の差を生むため注意が必要です。

「承りましたので、賜ります」→「承る」も「賜る」も何かを受けることを表すため、意味が重複してしまい、文章として不自然です。誤用の典型例といえるでしょう。

「賜りましたので、よろしく」→「賜る」という格式ある言葉を使っておきながら、「よろしく」というカジュアルな表現で締めるのは、文体の整合性を欠き、相手に軽んじられた印象を与える恐れがあります。

「承りました。賜ります。」→両方を同時に使うことで、かえって敬語表現に混乱を招くことがあります。

「ご厚情を承りました」→「ご厚情」は通常「賜る」対象であり、「承る」と組み合わせるのは不自然です。

ビジネス文書での適切な表現

適切な敬語表現は、相手に対して誠意と丁寧さを伝えるための大切な要素です。以下に「承る」と「賜る」を適切に使った例を紹介します。

正:

「ご依頼を承りましたので、早急に対応いたします。」→依頼を受けたという自分の行動を丁寧に表現。

「ご厚情を賜りまして、誠にありがとうございます。」→相手からの好意に対する深い感謝を示す表現。

「ご案内を賜り、心より感謝申し上げます。」→案内などの情報提供に敬意を表すフォーマルな表現。

誤:

「ご依頼を賜りました。」→「賜る」は相手からの恩恵や好意などに対して使うため、「依頼」は内容的に適さない。

「ご指導を承りました。」→「ご指導」は目上から与えられるものであるため、「賜る」が自然。

敬語表現では、言葉の組み合わせにより意味の整合性が崩れるケースもあるため、単語ごとの意味だけでなく、文章全体の文脈と語調にも注意を払う必要があります。

まとめ

「承る」と「賜る」は、いずれも日本語における謙譲語の一種であり、相手に対して敬意を払う際に使用される非常に重要な表現です。

しかし、その使用の場面や対象となる行為の性質に違いがあるため、適切な言葉選びが求められます。

「承る」は、「聞く」「引き受ける」などの動作を自らが行うときに、自分をへりくだって述べるための語です。

たとえば、相手の依頼や注文、意見などを受ける際に「承る」という語を用いることで、丁寧に受け止め、対応する姿勢を表すことができます。

一方で「賜る」は、「いただく」「受け取る」という意味を持ち、特に目上の相手からの贈与や好意、指導などを受けた場合に使われる語です。

ビジネス文書や公式な挨拶文、感謝を述べる文章などで多用され、格式ある場面にふさわしい表現です。

このように、同じ「もらう」「受ける」といった行為を示す言葉であっても、その行為の性質(能動か受動か)、または相手との関係性によって適切な敬語表現が変わります。

正しく使い分けるためには、まずそれぞれの語の意味を明確に理解し、次にその場の文脈や相手の立場を十分に考慮することが不可欠です。

とくにビジネスの場においては、言葉の選び方一つで印象が大きく変わるため、細心の注意を払うべきでしょう。

適切な敬語表現は、円滑なコミュニケーションを促進し、信頼関係を構築するための強力なツールとなります。

「承る」と「賜る」を正確に使いこなすことは、ビジネスマナーを身につける上での基礎であり、今後の社会的な信頼を築く上でも欠かせないスキルと言えるでしょう。