江波巻きの伝承地域は、広島市中区江波地区になります。主な食材は、米、広島菜漬け、かつおぶし、しょうゆ、白ごま、焼きのりです。
広島市中区の江波地区では、古くからのりの養殖が盛んで、伝統的な海苔巻きが食べられてきました。
焼きのりに、広島菜漬けと白ごま、かつおぶし、しょうゆで和えたご飯を巻き込んだシンプルなものです。
酢飯は使わず、具材には保存がきくものを用いるのが特徴です。また、巻き終わりをしっかり閉じて中身が出ないようにすることもあり、船に乗る際、片手で食べやすいよう工夫されています。
もともと、漁師がのりの収穫時に船上で手軽に食べるためのものだったと伝えられています。
使用する広島菜は、白菜の仲間であるとされ、食感がやわらかく歯切れがよいのが特徴です。
ほどよい辛さと風味で親しまれており、特に冬になると全国へ贈答品として出荷されます。広島菜は、江戸時代に参勤交代で京都から種を持ち帰ったのが始まりと言われ、一部では「京菜」とも呼ばれています。
この菜が「広島菜」として名付けられたのは昭和初期で、現在でも川内地区で栽培が続けられています。
江波巻きは、のり漁師が仕事の合間に船上でさっと食べたり、また子どものおやつとしても親しまれました。
江波巻きの作り方・食べ方は、広島菜漬けを洗って水気を絞り、かつおぶし、しょうゆ、白ごまと混ぜ合わせたものを焼きのりにご飯と一緒にのせて巻きます。巻いた後、両端を閉じて形を整えることもあります。
江波地区はアニメ映画「この世界の片隅に」の舞台となり、劇中でも江波巻きが登場しました。
地域イベントや飲食店で提供されるほか、学校給食としても提供され、子どもたちが自ら広島菜漬けとご飯を巻く体験ができるようになっています。
江波巻きのレシピと材料
材料(4人分)
ご飯:440g
広島菜漬け:100g
かつおぶし:4g
しょうゆ:小さじ2/3
白ごま:小さじ2/3
焼きのり:2枚
手順
1:広島菜漬けをさっと水洗いし、水気をしっかり絞る。
2:広島菜漬けにかつおぶし、しょうゆ、白ごまを加えて混ぜ合わせる。
3:焼きのりにご飯を広げ、2を乗せて巻き、完成。
江波巻き 映画「この世界の片隅に」に登場
映画「この世界の片隅に」でも描かれた広島の郷土料理「江波巻き」を、自宅で体験できるセットが登場しました。
「広島の郷土料理『江波巻き』体験セット」を手がけたのは広島市西区にある食品メーカー「丸徳海苔」です。
江波巻きは焼きのりでご飯と広島菜などを巻き、細長く仕上げ、最後に両端をしっかり閉じて中身がこぼれないようにするのがポイント。漁師たちは冷めないように手ぬぐいで包み、懐に入れて持ち歩き、片手で舟を操作しながら食べたと言われています。
映画この世界の片隅にとは?
『この世界の片隅に』は、こうの史代が手掛けた日本の漫画作品です。2007年から2009年にかけて『漫画アクション』(双葉社)で連載され、単行本は上下巻形式で2008年から2009年に、前後編形式で2011年に発売されました。
2011年には日本テレビ系でテレビドラマ化され、さらに2016年には片渕須直監督によるアニメーション映画として公開されています。また、2018年にはTBS系で再度テレビドラマ化され、2024年にはミュージカル版も上演されました。
この作品は、こうの史代が「戦争と広島」をテーマにした作品で、彼女の代表作『夕凪の街 桜の国』に続いて描かれたものです。
今回の物語は、広島の軍港都市である呉市を舞台に、戦争による空襲や苦しみを描いています。
原爆だけではなく戦争全体の悲惨さを伝える意図で、こうのはこの作品に取り組みました。作中では「戦中でも一人ひとりが日々生きていた光と影」を表現することが目指されています。
2006年から2007年にかけて、広島を舞台にしたいくつかの短編作品が発表され、それがきっかけで『漫画アクション』での連載が開始されました。
本作は、すずと周作の結婚から始まる物語で、時代背景や登場する月日が昭和の年号で表記されているのも特徴の一つです。単行本は130万部以上の発行部数を記録しています。
この作品は多くの国で翻訳され、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、韓国語、台湾語、ベトナム語、イタリア語などの版が刊行されています。
まとめ
江波巻きは、広島県広島市中区江波地区で古くから親しまれてきた郷土料理の一つです。
もともとは漁師たちが船上で手軽に食べるために考案されたもので、片手で持てるように工夫されています。
焼きのりにご飯を広げ、広島菜漬け、かつおぶし、白ごま、しょうゆで和えた具をのせて巻くのが特徴です。
特に酢飯ではなく白米を使い、具材には広島菜という白菜に似た漬物が用いられます。この広島菜は歯切れが良く、浅漬けにすると辛みが少し感じられる独特の風味が魅力です。
江波巻きの起源は、忙しい漁師たちが簡単に持ち運べて栄養がとれる食事として生まれたもので、懐に入れてもこぼれにくい形状が考案されました。
また、広島のり養殖が盛んだった江波地区では、破れた海苔が家庭用に回されており、それを活用していたとも言われています。
近年では、アニメ映画『この世界の片隅に』で主人公のすずさんが江波巻きを食べるシーンがあり、この料理が広く知られるきっかけにもなりました。
地元のイベントや飲食店で提供されるほか、学校給食などで地域の伝統を伝える取り組みも行われています。