私たちが日常的に使う日本語には、同じ読み方を持ちながらも意味や漢字が異なる言葉が数多くあります。
その中でも「勧める」と「薦める」は非常に混同されやすい言葉のひとつです。
どちらも「すすめる」と読むため、話し言葉では区別がつきませんが、文章においては漢字によって意味が異なるため、適切な使い分けが求められます。
たとえば、人に何かを提案するときや、商品やサービスを紹介する場面でこの2語をどう使うべきか迷った経験がある人も多いのではないでしょうか。
微妙なニュアンスの違いがあるため、正しい知識を身につけておくことは、ビジネスでも日常生活でも非常に重要です。
本記事では、「勧める」と「薦める」という2つの表現に焦点を当て、それぞれの意味や使い方、さらに具体的な使用シーンや例文を交えて詳しく解説していきます。
違いを正しく理解し、場面に応じた使い分けができるようになることを目指しましょう。
「勧める」と「薦める」の基本的な違い

「勧める」と「薦める」の意味
「勧める」は、人に対して何かをするように促す意味があり、行動をすすめる場合に使われます。
たとえば、「もっと運動を勧める」「禁煙を勧める」など、健康や行動習慣など、相手にとって有益だと思われる行為を導く場面に適しています。
これは、相手の行動を変化させるよう働きかける性質があるといえるでしょう。
一方、「薦める」は物や人、行動などを評価して紹介する意味が強く、推薦や推奨の意味合いが含まれます。
「この映画を薦めたい」「彼を候補者として薦める」のように、良質だと判断したものを他人に提示する形です。
行為よりも物や人の価値に注目し、それを他者に伝える点が大きな特徴です。
「勧める」と「薦める」の漢字の使い方
「勧」は「勧誘」「勧告」などに使われ、誰かに対して特定の行動を取るように促す際に用いられる文字です。
根底には“促す”という働きかけのニュアンスがあります。
また、「勧善懲悪」のように道徳的・倫理的な価値観を伴う場面でも使われることがあります。
「薦」は「推薦」「自薦」などに用いられ、価値や能力のある人物や物事を他者に知らせて評価してもらう意味が込められています。
価値のあるものとして認めることが前提であり、その価値を他人に伝える意図があります。
「勧める」と「薦める」の違いを理解するためのポイント
「勧める」は行動を促す表現であり、「薦める」は物や人物を紹介することに主眼があります。
違いを理解する上での大切なポイントは、対象の「性質」と「目的」に注目することです。
「勧める」は結果としての行為を引き出したい時に使い、「薦める」は判断材料として提示するニュアンスがあるため、両者の使い分けを理解するには、状況と目的を整理してから言葉を選ぶことが重要です。
「勧める」と「薦める」の正しい使い分け
例えば、旅行に行くように提案する場合は「旅行を勧める」が適切ですが、特定の本やレストランなどを紹介する場合は「この本を薦める」が自然です。
さらに、勧誘的なニュアンスを持たせたい場合は「勧める」を選ぶことでより積極的な印象を与えることができます。
一方、「薦める」は評価や品格が問われる場面、たとえば就職活動や書評など、信頼性が重要な文脈でよく用いられます。
このように、どちらの語を使うかは、単に言葉の意味だけでなく、その場面で伝えたい印象や意図によっても左右されるのです。
「勧める」と「薦める」の使い方

商品を勧める場面
接客業や営業の現場では「この商品を勧めます」と言うことで、購入を促す意図を表現します。
例えば、新商品を店頭でアピールする際や、お客様のニーズに合った製品を案内する場合などに「勧める」が使われます。
お得なキャンペーンや便利な使い方などを説明し、行動につなげる提案という意味合いが強くなります。
ただし、高品質な商品やブランド品、または顧客の信頼が重要な場面では「薦める」と表記することで、より丁寧かつ信頼性のある印象を与えることができます。
たとえば、「この化粧品は品質が非常に高いので、自信を持って薦められます」といったように、製品の優れた点を伝える場合に適しています。
本を勧める際の表現
友人や知人に読書を促すような一般的な提案には「本を勧める」が使われます。
たとえば、「読書の習慣をつけたいなら、この小説を読んでみるといいよ」といった形です。
この場合は、読書という行為そのものを促していることから「勧める」が適しています。
一方で、特定の書籍や著者、ジャンルなどを評価して紹介する場合には「この本を薦める」となります。
たとえば、「このミステリー小説は構成が見事なので、ぜひ薦めたい」といったように、読み応えや面白さなどを理由として紹介する場合に「薦める」が適切です。
食べ物を薦める具体例
グルメの話題でよく登場するのが「薦める」です。
「この店のカレーを薦めるよ」「あそこのラーメン屋はスープが絶品で本当に薦められる」といったように、自分の評価や体験に基づいて特定の料理や店を他者に紹介する場合に用いられます。
また、家族や友人との会話で「今日は和食を勧めるよ」のように、その日の気分や健康状態に応じて食事内容を提案する場合は「勧める」が使われることもあります。
このように、「何を薦めるか」「何を勧めるか」によって漢字を使い分けると、意図がより明確になります。
人に勧める場合の注意点
「勧める」は相手の行動や態度に変化を促すときに使います。
たとえば「禁煙を勧める」「運動を勧める」「早寝早起きを勧める」など、相手の生活改善や健康促進を意図した発言に用います。
これは相手の選択や決断に対して積極的な後押しをするニュアンスです。
一方、「薦める」は特定の対象を評価して選び取ることを勧める場面に使います。
「この候補者を薦める」「こちらの製品を薦めます」「彼女の企画案を薦めたい」など、何かしらの評価基準に基づいて推奨する行為です。
ビジネスの場面では特にこの違いを意識し、使い分けを正確に行うことで、信頼性のある文章や話し方になります。
「勧める」と「薦める」の類義語について

「推奨」とは何か
「推奨」は、特定の対象を積極的に評価して支持する言葉です。
公的な場面や公式文書で使用されることが多く、学術論文や製品レビュー、行政からの発表などに見られます。
たとえば「このワクチンの接種を推奨します」といったように、信頼性の高い情報として第三者に向けて発信する際に適した語です。
また、「推奨」は個人的な感想よりも客観的なデータや実績に基づくことが多く、権威性や正当性を伴うのが特徴です。
「推薦」の使い方と違い
「推薦」は、人や物をある立場に選出して他者に紹介・提示する言葉であり、「推薦状」や「学校推薦」「推薦入試」など、特定の人物や作品を認めて支援する意図があるときに使われます。
推薦には信頼性や人物評価が強く関与しており、単なる紹介以上に責任を伴う表現です。
また、ビジネスや学術の場においては「第三者からの推薦」が高い価値を持つことから、推薦を通じた人間関係の信頼構築が重要な役割を果たします。
「お薦め」と「お勧め」の使い分け
「お薦め」は、特定の商品やサービスを高評価として紹介する場面でよく使われ、「味に自信のある料理をお薦めします」など、ややフォーマルで丁寧な印象を与える言葉です。
紹介対象の価値を評価し、それを他者に伝える意味合いが強く含まれます。
一方、「お勧め」は提案的な要素が強く、「今の季節にぴったりのお勧めプランはこちらです」といったように、相手の選択を導くニュアンスがあります。
広告・販促資料などでもよく使われ、場合によっては軽やかで親しみやすい印象を与えます。
なお、インターネットや広告媒体では、意味をやわらかく伝えるために「おすすめ」と平仮名で表記することが増えています。
これは視認性や読みやすさ、そして語感の柔らかさを重視した表現方法であり、両方の意味(推薦と提案)を内包できる便利な語として多用されています。
「勧める」と「薦める」の実用的な例文

日常生活での「勧める」の例文
彼にはもっと野菜を食べるように勧めている。
最近読書の楽しさを知ったので、友人にも本を読むことを勧めた。
雨が降りそうだから、傘を持っていくよう勧めた。
疲れているなら、早めに寝ることを勧めるよ。
初心者には、この道具を使うことを勧めます。
ビジネスシーンでの「勧める」の例文
今回の企画では、オンラインでの展開を勧めます。
顧客に対しては、長期契約を勧める方が効果的です。
社員にはスキルアップのための研修受講を勧めています。
コスト削減のために、このシステムの導入を勧めたいと思います。
会議では、他部署との連携強化を勧める発言があった。
教育や自己啓発での「勧める」の例文
学生たちには、自分の興味を深く掘り下げることを勧めたい。
早い段階からの進路相談を勧めています。
将来のために、留学を勧める親も増えています。
自主的な学習スタイルを勧める教師が多い。
反省文を書くことで、自分を見つめ直すことを勧める指導法です。
健康・生活習慣に関する「勧める」の例文
医師からは、毎日の運動を勧められました。
カフェインを控えるよう勧められている。
禁煙を真剣に勧められたことがきっかけで、決意した。
健康診断を定期的に受けることを家族に勧めています。
ストレス解消のために瞑想を勧める記事が多くなっています。
商品・サービスを「薦める」例文
このシャンプーは髪に優しいので、自信を持って薦められます。
初心者には、このカメラを薦めたいですね。
店員が薦めてくれたワインがとても美味しかった。
お土産にするなら、この和菓子を薦めますよ。
新作スマートフォンを友人に薦めたところ、すぐに購入していた。
書籍・映画・音楽などを「薦める」例文
この本は感動的なので、ぜひあなたにも薦めたい。
教養を深めたいなら、このドキュメンタリー映画を薦めます。
落ち込んだときに聴くと元気が出る曲を友達に薦めた。
歴史小説が好きな方にはこの作家の作品を薦めたいです。
教材としても優秀なので、先生方にも薦めています。
人や人材を「薦める」例文
私は彼女を次期リーダーとして強く薦めます。
人柄も能力も申し分ないので、彼を候補者として薦めたい。
面接で彼女を薦めたのは、以前から実力を認めていたからです。
新しいプロジェクトの責任者には、山田さんを薦めたいと思います。
経験豊富なスタッフを薦められて、安心して仕事を任せられた。
飲食・旅行・店舗を「薦める」例文
このレストランは雰囲気も味も良いので、デートに薦めたい。
北海道を旅行するなら、小樽を薦めるよ。
初めて来る人にはこのカフェを薦めます。
地元の人が薦めるラーメン屋は、やはり外れがない。
ガイドブックには載っていない穴場を薦めてもらった。
フォーマル・ビジネスシーンでの「薦める」例文
弊社としては、御社にこちらのプランを薦めたいと考えております。
社内で選抜された優秀な人材をこのポジションに薦めます。
本日の提案資料に基づき、次回の導入モデルとしてA案を薦めます。
上層部が薦めた改善案が現場でも好評だった。
取引先にも安心して薦められるクオリティを保っています。
「勧める」「薦める」以外の表現

「奨める」とは?
「奨める」は、「奨励」という言葉に含まれているように、努力・挑戦・向上心などを持つ行為を積極的に後押しする意味を持っています。
たとえば、教育現場や自己啓発において「学生にボランティア活動を奨める」「若者に起業を奨める」などと使われます。
使用頻度は比較的低いものの、文章では正式で真面目な印象を与えるため、特に勉学や研究、公共性の高い場面で用いられることが多いです。
また、「奨学金」「奨学生」などの語とも関連が深く、努力を促す意味が語源にも反映されています。
「進める」との違い
「進める」は、「計画を進める」「作業を進める」など、物事やプロジェクト、行動の過程を前へと進行させる行為自体を意味します。
「すすめる」という読みは同じでも、「勧める」「薦める」「奨める」が他者への働きかけや推薦であるのに対し、「進める」は対象そのものの動きを加速・展開させることに重点が置かれます。
たとえば「議論を進める」は会話の流れを先へ運ぶという意味合いで、「新しいプロジェクトを進めている」といえば、自分が主体的にプロジェクトの遂行に関わっている状態を示します。
したがって、語感も意味も大きく異なる言葉だといえるでしょう。
「勧誘」や「奨励」の使い方
「勧誘」は、相手をある行為や集団に参加させようと誘う行為を指します。
「保険の勧誘」「サークルへの勧誘」など、やや強制力を感じさせる場面や営業活動に使われることが多く、ネガティブな印象を持たれることもあります。
場合によっては「しつこい勧誘」といった否定的な文脈で用いられるため、注意が必要です。
一方、「奨励」は「努力・行動・挑戦」を推進する意味で用いられ、「読書を奨励する」「創造的な活動を奨励する」など、積極的に何かに取り組むことを推奨する表現です。
教育機関や企業、政府機関などで広く使われ、社会的に望ましい行動を促す際に頻繁に登場します。個人の内面の成長を応援するニュアンスが強いため、より肯定的で支援的な語感を持ちます。
まとめ
「勧める」と「薦める」は、どちらも「すすめる」と読める同音異義語ですが、それぞれが担う意味合いや使用される場面には明確な違いがあります。
「勧める」は、誰かに対して何かの行動や態度を取るように促すときに用いられ、生活習慣の改善や行動の選択肢を示す際に適しています。
たとえば健康的な食事をとることや禁煙を促す場合など、相手の行動に変化を与える意図が込められています。
一方で「薦める」は、価値ある物や人物、サービスなどを他人に紹介・推薦する場面で使われ、相手に選択肢を与えるというよりも「これは良い」と伝えるニュアンスが強く表れます。
特定の商品、本、レストランなどの推薦において頻繁に使われる表現です。
両者を正しく使い分けることは、文章や会話の中で伝えたい意図を的確に伝えることにつながります。
また、状況に応じた語彙の選択は、読み手や聞き手に信頼感や説得力を持たせる効果もあります。
ビジネスや教育、日常生活のあらゆる場面で適切な表現を選ぶことができれば、より洗練されたコミュニケーションが実現するでしょう。